「SDV」ってなに? ―自動車産業の盛衰をかけた挑戦と求められるマインドの大転換―
なぜ「SDV」を国を挙げてプッシュするのか?
今回、モビリティDX戦略の目玉がSDVになった背景には、自動車におけるハードウエア開発の限界がある。電動化でソフトウエアの重要性が高まっていることは言うまでもないが、それに加えて、非破壊で車両1台分のCADデータを作成できる超⼤型X線CT装置が開発されているため、ハードウエアに関して企業秘密の保持が成立しなくなる可能性が指摘されているのだ。データから製品を再現するリバースエンジニアリングとまでいかずとも、ハードウエアについての競争優位性が低下することは否めない。 自動車産業の未来を守るには、ここでソフトウエアと半導体にしっかりと投資をする必要がある。しかし、電動化関連の投資もあって各社の負担は増すばかり。そこで最近は、「SDVの競争領域と協調領域を切り分け、協調領域は大きな枠組みで進める」という流れになっているのだ。高性能半導体ではNVIDIAやQualcommが先んじているが、2023年12月にはトヨタ自動車やデンソー、ルネサスなど国内12社が集結して「SoC(System on Chip:高性能デジタル半導体)」の車載化研究開発を行う、自動車用先端SoC技術研究組合(ASRA)を設立。現在は14社が加盟し、2030年以降の量産適用に向けて活動を進めている。 もちろん、各社とも個別の取り組みも進めている。ホンダはSDV実現のためにIBMと次世代半導体・ソフトウエア技術の共同研究開発に取り組むこと、SDVの研究開発に約2兆円を支出すること(参照)を相次いで発表して話題を呼んだ。トヨタや日産も直近の発表こそないが、SDVを事業戦略に組み入れ、さらなる投資を予定している。2030年に向けて自動車業界が進む方向性はかなり明確になってきたように思う。
ソフトウエアの更新でできること、できないこと
ユーザーはSDVとどう付き合っていくことになるだろうか。OTAはすでにテスラや国内メーカーも一部車種で導入しているが、SDVはこれらをさらに進化させたものになる。車内の快適性能ではなく、より本質的な運転機能の更新がなされる可能性が高い。ただし、ハードウエアは変わらないので、そのポテンシャルの範囲内でのアップデートとなる。 例えば自動運転/先進運転支援システムでは、「認知」「判断」「操作(制御)」を自動車が行っている。このうち、「認知」についてはカメラやセンサーなどの性能に依存するところが大きく、ソフトウエアでの劇的なアップデートはなさそうだ。いっぽう「判断」はソフトウエアによる機能更新に可能性がある。「操作(制御)」をつかさどるのはハードウエアだが、それを動かすソフトウエアが重要なので、こちらも機能更新に可能性がある。 いずれにしても、自動運転レベル1のクルマがソフトウエアアップデートだけで一足飛びにレベル3になるとは考えにくい。安全性の観点からも、当面はバージョン1.0.0が1.0.1になるような、堅実な変化を重ねていくのではないだろうか。