新型アバルト500eは前例のない新感覚のホットハッチだった!!! エレキで走る1分の1のオモチャとは?
スポーツカー本来のあり方をEVで提示
走行モードにはデファクトの「ツーリズモ」、「スコーピオン・ストリート」、「スコーピオン・トラック」の3種類がある。「スコーピオン・ストリート」はいわばSモードで、ここまでは1ペダルで操作できる。アクセルをオフにするとブレーキを踏んだときに近い減速が得られる。慣れると使いやすい。もっとも、「スコーピオン・トラック」だと、通常の2ペダル運転ができるので、1ペダルに慣れなくても使いやすい。 電力消費は激しい。ステランティスの地下駐車場で電気エネルギーは100%、走行可能距離はカタログの294kmよりも短い259kmとスクリーンに表示されていたのはちょっと気になるけれど、たいへん正直な表示なのだろう。都内を1時間ほど走りまわった1時間後、車載コンピューターは電気エネルギー残量79%、走行可能距離164kmと表示した。距離計によると45km一般道を走っただけなのに、走行可能距離は130kmも短くなった。してみると、アバルト500eは満充電でも実際は150kmほどしか走れないことになる。 だけど、これでいいのだ。と、筆者は思うのである。だって、長いこと乗っていたら飽きちゃう可能性がある。いくら優れた音響エンジニアでも、変速ギヤを持つ内燃機関のような起伏に富んだサウンドをつくりだすことは現段階ではできない。短いからこそ、楽しい。 アバルト500eの新しさは、外部にエンジンの音を轟かせて、他人に見せびらかす。というスポーツカー本来のあり方をEVで提示したことだと筆者は思う。なんだって、あなたはこんなオモチャみたいなEVを買ったのか? と、問われたとき、オーナーは誇らしげに、あるいはちょっとはにかみながら、こう答えられる。 「私はガソリン自動車が大好きなんです」 今年の日本カー・オブ・ザ・イヤーの10ベストの1台に選んだ選考委員諸氏も、きっとおなじ思いだろう。
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)