養老孟司が考える現代人の問題点。「今の時代<手術が成功してがん細胞は撲滅しました。でも本人は亡くなりました>になりかねない」
◆自分は馬鹿だと思った方が安全 鵜飼 「「話せばわかる」なんて大うそ!」と『バカの壁』の初版の帯にありました。では、話してもわからない人、権力者とはどうつきあえばよいのか。ますます混迷の時代になってきました。 書籍に収録した「原理主義vs.腹八分の正義」の中では、脳は完全ではないので、〈腹八分ではないが、正義も八分だ〉としつつ、〈八分の主張は、十分の主張(原理主義)に短期的には負ける。二分足りないから、負けるに決まっている〉と書いていますね。長期的にみると勝敗はどうなりますか。 養老 コロナが流行し始めた頃、当時の米国のトランプ大統領と英国のジョンソン首相、ブラジルのボルソナロ大統領が、「あんなもの」と言って、マッチョに行動して、3人ともコロナになったことがあったでしょ。結局、あまり極端なことをしていると、いずれ反動というか、マイナスがくる。そう思っています。 鵜飼 自分は利口だから、「バカの壁」はないと思っている人にひと言お願いします。 養老 これは古くから言われる「謙虚」って言葉ですかね。まあ、自分は馬鹿だと思った方が安全ですよ。そもそもね、人って反省すると「なんて馬鹿だったんだろう」って思うでしょう。これなんですよ。反省しなくたって人は始めから馬鹿なんだから(笑)。 ※本稿は、『わからないので面白い-僕はこんなふうに考えてきた』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
養老孟司,鵜飼哲夫