【社説】伝統的酒造り 文化遺産を復権の弾みに
日本酒や焼酎の知名度が世界的に高まれば、消費の拡大や担い手確保が期待できる。伝統文化である酒造りの技をさらに磨き、九州など生産地の活性化につなげたい。 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の評価機関は日本酒や本格焼酎、泡盛などの「伝統的酒造り」を無形文化遺産に登録するよう勧告した。12月のユネスコ政府間委員会で正式決定する見通しだ。 伝統的酒造りはカビの一種であるこうじ菌を使い、蒸したコメなどの原料を発酵させる。日本古来の製造技術で、複数の発酵を同じ容器の中で同時に進める工程は世界でも珍しい。 各地の風土や気候に合わせて、杜氏(とうじ)たちが手作業で洗練させ、継承してきた。 勧告は伝統的酒造りの知識と技術が「個人、地域、国の三つのレベルで伝承されている」と評価した。 祭事や婚礼といった日本の社会文化的行事に酒が不可欠であることや、酒造りが地域の結束に貢献していることなどが、登録に必要な基準を満たすと判断した。的確な捉え方である。 日本酒や焼酎などの国内市場は、高齢化や消費者の嗜好(しこう)の変化で縮小している。 国税庁によると、2022年度の日本酒を含む清酒の出荷量は40万7千キロリットルで、約50年前の4分の1に減少した。泡盛を含む本格焼酎(単式蒸留焼酎)は39万3千キロリットルで、焼酎人気が続いていた07年度と比べ3割減っている。 こうした中で蔵元が期待を寄せるのが海外市場だ。清酒の輸出は近年急増しており、輸出額は12年の約89億円から23年は約411億円に伸びている。 13年に「和食」が無形文化遺産に登録され、海外で和食人気が高まったことも追い風となった。 ウイスキーなど洋酒を含む日本産酒類の23年の輸出額は1344億円で、世界の酒類市場の0・1%程度に過ぎない。伸びしろは大きい。 日本を訪れる外国人観光客が日本酒や焼酎を味わう機会が増えており、国内消費も幅が広がりそうだ。和食に限らず、さまざまな食に合った酒を勧めるなどPRに工夫を凝らす必要がある。関係者の努力に期待したい。 酒類に対し、関税や輸入規制などのハードルを設けている国が少なくない。関税や規制の緩和、輸入手続きの簡素化などには政府の働きかけが欠かせない。 優れた酒造りを担うのは、高い技能と経験を持つ杜氏や蔵人と呼ばれる職人だ。有志でつくる日本酒造杜氏組合連合会に所属する杜氏は、1965年に3683人を数えたが、22年は約5分の1の712人まで減った。 九州の生産地にとっても悩みの種だ。無形文化遺産登録は、身近な酒造りの価値を多くの人が認識するきっかけになる。ぜひ後継者の育成に弾みをつけたい。
西日本新聞