途絶えかけた伝統「救出」事例も 「地域おこし協力隊」開始10年
都市部に暮らす人材を地方に投入することよりその自治体の活性化を図る「地域おこし協力隊」の制度開始から10年が過ぎた。隊員数、受け入れ自治体数共に増加の一途をたどっている。任期終了後も派遣先の地域に住む隊員は約6割で(2017年3月時点)、管轄する総務省は「この仕組みがなければ定着しなかった、ということを考えれば成果」としている。中には、移住先の地域で後継者がいなかった伝統を継承した事例も出てきている。
協力隊員が受け継いだ手作り味噌
「もうこの味噌は終わりと思ってました」 そう話すのは、熊本県荒尾市の一部地域に伝わる手作りの麦味噌「折敷田(おしきだ)味噌」を作り続けてきた浜崎京子さん(80)。地元の中高年女性を中心とした味噌作りグループの代表として活動しながら、ノウハウを受け継いでもらえる人材を30年以上探し続けてきたが、次世代の担い手が見つかる気配は全くなかった。
「この部落(地域)にいるのも皆70代、60代が中心。若い人たちは都会に出て、行った先で結婚して、(以前は味噌作りを担ってきた)お嫁さんたちも来ない。こげんと(そういうもの)はやりたくなか、っていう人が多かったです。誰も見つからなかった」 諦めかけていた時、味噌作りをやってみたいと申し出た人がいた。地域おこし協力隊員として荒尾市に入っていた前田優さん(43)だ。東京でのサラリーマン生活を経て移住した先で、偶然出会った手作りの麦味噌に強く興味を惹かれた。 浜崎さんは、二つ返事で申し出を引き受けた。終わりを迎えようとしていた伝統の味噌作りが、こうして息を吹き返すことになる。
増加続ける「協力隊員」 20・30代が7割
「地域おこし協力隊」は2009年にスタート。総務省によると、2018年には全国の1,061の自治体が制度を利用し、都市部からの人材を受け入れた。受け入れ資格のある地方自治体(1,387)のうち、8割近くが協力隊制度を活用している計算だ。隊員数も、89人だった09年度から大きく伸び、18年度には5,359人にまで増えた。 任期が最長3年、という点を除けば制度設計の自由度が高く、具体的な活動内容や待遇などについては各自治体の裁量に委ねられている部分が大きいとされる。