日銀が2014年上期の金融政策決定議事録を公表へ:円安等による一時的な物価上昇を政策効果によるものと誤解。10年後にも同じ過ちを繰り返さないか
物価上昇率の下振れを消費税率引き上げと原油価格の下落のせいにした
物価上昇率の下振れを受けて、日本銀行は2014年10月に量的・質的金融緩和の拡大、つまり追加の金融緩和に踏み切る。長期国債の買い入れ増加額の目標を年間約50兆円から約80兆円に拡大した。またETFの買い入れ額を従来の3倍に拡大した。 すでに指摘したように、金融緩和の効果は発揮されていたが、消費税率引き上げや原油価格下落によって頓挫してしまった、と日本銀行は説明していた。 ただし、日本銀行は2%の物価目標を「2年程度を念頭に」達成を目指すとしていた。このように時期を特定したことは、金融緩和の効果は絶大であり、消費税率引き上げや原油価格の下落といった環境変化によってその効果が大きく削がれることがない、ということが前提であったはずだ。
成功体験が政策の軌道修正の妨げとなった
日本銀行は、再び金融緩和を強化することで、物価上昇率を再び上昇基調に乗せ、2%の物価目標達成を目指したのである。しかし、こうした判断は、2014年半ばまでの物価上昇率の高まりが、金融緩和による直接的な影響によるものだ、という誤った考えに基づいていたと考えられる。 物価上昇率が高まったという成功体験ができたがゆえに、その後も異例の金融緩和を縮小する方向への修正はなされずに、効果が期待できない一方副作用を高めかねない追加緩和が繰り返されるという泥沼にはまっていったのではないか。これは不幸なことであった。 当時、もっと冷静に物価の分析がなされていれば、物価上昇率の高まりは金融緩和効果によるとの結論には至らず、異例の金融緩和はもっと早期に修正されていたのではないか。
物価目標の柔軟化と政策の見直しを提案
当時審議委員として金融政策決定会合で政策決定に関与していた筆者は、物価上昇率の上振れは、金融緩和の直接的な効果によるものではなく、円安、原油高による一時的現象と考えていた。 そのうえで、達成が難しい2%の物価目標を維持すると、異例の金融緩和が長期化し、大きな副作用を生むことを懸念していた。そこで、2%の物価目標を中長期の目標へと柔軟化し、さらに異例の金融緩和がいたずらに長期化し、深刻な副作用を生まないように、物価動向に限らず、量的質的金融緩和導入から2年程度で、政策を柔軟に見直すことを一貫して提案していた。