日銀が2014年上期の金融政策決定議事録を公表へ:円安等による一時的な物価上昇を政策効果によるものと誤解。10年後にも同じ過ちを繰り返さないか
10年経っても2%の物価目標の達成はなお難しい
ところで、10年経った現在でも、似たような環境に基づく物価上昇が生じている。原油価格の上昇や円安によって、消費者物価上昇率は現在、2%の物価目標を上回っている。物価上昇率の上振れはしばらく続くとしても、それは持続的なものではないだろう。 日本銀行は、輸入物価の上昇は日本経済には打撃となるが、それが賃金に転嫁され、さらに賃金上昇が物価に転嫁される中で、「悪い物価上昇」が「良い物価上昇」に転じる、と説明している。「災い転じて福となす」のようなことが容易に実現するとは思えない。 日本銀行が想定しているように、賃金上昇を伴う持続的な物価上昇によって2%の物価目標を達成することは、実際にはかなり難しいと考える。 労働生産性上昇率や潜在成長率の向上といった日本経済の実力を高める構造変化がない限り、物価上昇率のトレンドが短期間で大きく上振れ、それが定着することは考えにくいところだ。 むしろ実力以上の物価上昇率の上振れは、円安を伴いつつ、個人の超長期の物価上昇率見通し(インフレ期待)を上振れさせ、個人消費を悪化させてしまっている。そのもとでは、企業は価格引き上げを持続的に行うことは難しいはずだ。 10年前のように、日本銀行が物価上昇率のトレンドを見誤れば、それは金融政策の判断ミスにつながる。例えば過剰な利上げやそれを先取りした長期金利の過度な上昇が、実体経済や金融市場の安定を大きく損ねてしまう可能性もあるだろう。 日本銀行は10年前の判断ミスを真摯に振り返り、「今回は違う」といった楽観論に支配されず、同じ失敗を繰り返さないように強く心がける必要がある。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
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