7つの激戦州だけじゃない! トランプvsハリス「歴史的な接戦」で重要な意味を持つことになる州とは?【前嶋和弘の2024アメリカ大統領選、深層ウォッチ】
ちなみに先日、日本でも公開されて「分断されたアメリカで内戦が勃発」という内容が話題となった映画『シビル・ウォー・アメリカ最後の日』では、武装した赤いサングラスの男が「お前はどんな種類のアメリカ人だ?」と問いかけ、気に入らない相手を迷いなく射殺していく......という衝撃的なシーンがあります。 先ほどのトランプの言説は、この赤いサングラスの男がやっていることと同じです。大統領選の結果次第で、来年1月にアメリカ軍の最高司令官となるかもしれない人物が、公然とこのようなことを口にしているわけで、もはや「現実が映画を超えている」としか言いようがありません。 このようにアメリカ社会を敵と味方に分けて分断を煽り、内戦の可能性まで示唆するようなトランプの言説は、今までであれば党派やイデオロギーの違いを超えて問題視され、間違いなく強い批判を浴びていたはずです。 かつて、ジョージ・W・ブッシュ政権で副大統領を務めた共和党の大物ディック・チェイニーの娘で、共和党内でもタカ派の宗教右派として知られる元下院議員のリズ・チェイニーなど、いわゆる「トランプ化」が進む前の共和党のリーダーたちや、アメリカ軍の幹部を務めた人たちが、今回の選挙で公然とハリス支持を表明しているのも、彼らがトランプの存在を深刻な民主主義に対する脅威と見なしているからです。 それでもなお、アメリカ社会の深刻な分断と拮抗を背景とした今回の大統領選では。トランプの過激な発言も大きな失点とはならず、選挙結果に大きな影響を与えることはないでしょう。それがまた今回の大統領選の「異様さ」でもあるわけです。
■選挙人、過半数獲得をめぐる戦い 実際、大統領選の行方を左右する激戦州の世論調査を見ても、両者の差は依然として誤差の範囲と呼べる程度しかありません。また、すでに多くの州では11月5日の投票日を待たずに期日前投票や郵便投票が始まっているため、残りわずかの期間に何か大きな動きが起きることは考えにくい。 それは言い換えるなら、今回のアメリカ大統領選が歴史的な接戦になる可能性が極めて高いことを意味しています。では「歴史的な接戦」とは、具体的にどのような状況なのでしょうか? その話に入る前に、少しだけアメリカ大統領選の仕組みを簡単におさらいしておきましょう。 アメリカ大統領選の投票権を持つのは、18歳以上のアメリカ国民ですが、全米の得票数で勝敗を決めるのではなく、まずは全米50州と特別区に指定されている首都ワシントンで投票を行って、それぞれの勝者を決定します。その勝者が各州に割り当てられた選挙人を獲得し、全米で計538人の選挙人の内、過半数の270人を獲得した候補者が大統領に選ばれるという、ちょっと複雑な仕組みです。 ちなみに、人口などに応じて各州に割り当てられる選挙人の数は、カリフォルニア州が最大の54人なのに対して、最も少ない州と特別区のワシントンは3人のみと、州によって異なっていて、メイン州とネブラスカ州を除くほとんどの州では、勝った候補者がすべての選挙人を獲得する「勝者総取り方式」を取っているため、選挙人定数の多い州の勝敗が結果を大きく左右することになります。 ただし、全米50州のうち、大半の州では「共和党優位」「民主党優位」という色分けがハッキリと決まっているため、実際に選挙結果を左右するのは、激戦州と呼ばれるアリゾナ(11名※選挙人の定数)、ウィスコンシン(10名)、ジョージア(16名)、ネバダ(6名)、ノースカロライナ(16名)、ペンシルベニア(19名)、ミシガン(15人)の7州だといわれていて、選挙戦の最終盤を迎えた今、この7州が選挙人の過半数にあたる270人の獲得をめぐる主戦場となっているわけです。