U2が語る『How to Dismantle an Atomic Bomb』20年目の真実、バンドの現状と未来
『How to Dismantle an Atomic Bomb』の制作背景
―今あなたはどちらにいますか? ジ・エッジ:ダブリンだ。ちょうどレコーディング・セッションを終えて帰ってきたところさ。デモを作ったり、何曲か仕上げてレコーディングもした。ボノと僕の2人だけの作業だったが、楽しかったよ。 ―『How to Dismantle an Atomic Bomb』ですが、当時ボノはギター中心のアルバム作りを目指して、ザ・フーやザ・クラッシュ、バズコックスなどからインスピレーションを得た、と話していました。あなたも同じ目標を持っていたということでしょうか。 ジ・エッジ:全くその通りだ。メンバーが結束して、バンドとしてのインスピレーションを模索していた時期だ。僕たちはギター、ベース、ドラムというシンプルな構成の曲作りを突き詰めながら、U2のクリエイティビティを初めて確立した。使う楽器に制限を持たせた創作作業は、刺激的な挑戦だった。創作プロセスにおいて、ダイナミクスがとても重要だからね。だから当時は、かなり意識しながらアルバム制作に打ち込んでいた。 ―どのように方向性が定まったのでしょうか。 ジ・エッジ:僕たちが「パワー・アワー」と名付けた、ダニエル・ラノワと一緒に築き上げた方法論がある。週に1度か2度のペースで全員が集まって、とにかく即興で演奏するんだ。そうする中で曲のアイディアが生まれたことが、何度もある。 即興だから、メンバー同士がお互いの演奏にリアルタイムで反応しなければならない。想像もしていなかったような結果が生まれることもある。いい意味で常識外れなU2を聴けるコレクションだと思う。僕たちが積極的に採り入れた斬新な方法が生み出すカオスの良い面を、上手く利用できているんだろう。きっかけとなるのはラリーのドラムかもしれないし、アダム(・クレイトン)のベースかもしれない。あるいは僕のギターの時もあるだろう。とにかく思いがけず魅力的な音楽が生まれたりするのさ。 ―当初はプロデューサーとしてクリス・トーマスと制作を進めていました。セックス・ピストルズ『Never Mind the Bollocks(邦題:勝手にしやがれ)』という、歴史に残る素晴らしいギター・アルバムを手がけた人です。しかし数カ月後に、スティーヴ・リリーホワイトへと乗り換えました。クリス・トーマスとの仕事には、どんな不満がありましたか。 ジ・エッジ:クリスとはある程度上手くやれていたと思う。でもラフ・ミックスの段階になって、僕たちがどんどん作り出そうとするカオスを、クリスが懸命に鎮めようとしているのに気づいたんだ。彼の仕上げた作品が、僕たちにはとてもお上品に聴こえた。でもプロデューサーをパッと切り替えてしまう前に、僕たちは「スティーヴ(・リリーホワイト)と何曲かセッションしてみて、どんな仕上がりになるか試してみよう」という感じでまず様子を見たのさ。 誰と組むかは、全く偏見なく選んだ。それでも、僕たちがスティーヴと時間をかけて築き上げてきたより有機的なプロセスに、割とすんなり落ち着いた。彼はとても前向きかつ協力的で、経験豊富な人間だ。それに僕たちの能力や弱点もよく心得ていて、バンドの限界に縛られることなく、僕たちから最高の結果を引き出す力を持っていた。ポストパンク時代の僕たちは、とにかくシンプルかつストレートさを求めていたからね。 ―スティーヴ・リリーホワイトとはデビュー当時からの付き合いなので、4人のメンバー全員のことをよく把握していたでしょう。 ジ・エッジ:その通り。僕たちはいくつか良いアイディアを温めていたし、磨けば光る曲の原石も持っていた。磨いてダイヤモンドになった代表的な例が、「Vertigo」だ。元々は「Native Son」というタイトルの曲で、既に仕上がっていた。完成度が高くソリッドで美しいロックンロール曲だと思っていた。ところがスティーヴが「君らならもっと良いバッキング・トラックを作れるはずだ」と言うので、ボノを除くアダム、ラリーと僕の3人でスタジオに入った。結局新たに3テイク録って、そのうちの1つを選んだ。 新しいバッキング・トラックに乗せて歌ってみたボノは、「“Native Son”よりもいいじゃないか!」という感じだった。そこでボノは、新たなバッキングによりフィットするメロディを考え、歌詞も真面目なドキュメンタリーチックなものから、もっと遊び心を持たせてみた。すると全くカラーが変わり、深みのある良い曲に仕上がった。これこそ僕たちが求めていた、理想的なカオスだ。 ―「Beautiful Day」が大ヒットして、あなた方に再びスポットライトが当たりました。そんなアルバム『All That You Can’t Leave Behind』に続く作品ということで、プレッシャーを感じませんでしたか? ジ・エッジ:答えはイエスでノーだな。前作と同じ路線で行くつもりはなかったし、「Beautiful Day」が成功したことで、逆によりハードなギター中心の作品にしようと僕たちは決めていたんだ。 U2のアルバムは、常に過去の作品を意識して作られている。だから常にプレッシャーがあると言えばあるが、だからといって成功例をコピーするつもりもなかった。僕たちは二番煎じでは絶対に満足できなかったし、ベストなものを作り出すには常に新しいものを求め、音楽的に新たな領域へ踏み込まなければいけない。そういう僕たちの決意の延長にあるのが『How to Dismantle an Atomic Bomb』だ。