U2が語る『How to Dismantle an Atomic Bomb』20年目の真実、バンドの現状と未来
“Re-Assemble”収録のレア曲について
―間もなくリリースされるアルバムに収録される楽曲について聞かせてください。「Picture of You」には、「Fast Cars」や「Xanax and Wine」といった既に私たちも耳にしている別バージョンがあります。 ジ・エッジ:U2としては決して珍しいパターンではない。例えば『Achtung Baby』の時に「Lady With the Spinning Head」というデモ曲があって、最終的に「The Fly」と「Zoo Station」に細胞分裂した。同じようにひとつのギターリフから、「Xanax and Wine」と「Fast Cars」「Picture of You」が生まれた。 ―ボノがボーカルを焼き直したように聴こえる曲もあります。 ジ・エッジ:全てではないが、一部はそうだ。収録曲を仕上げていく課程で、自分たちが20年前に抱いていたスピリットや当時の作品に忠実でありたい、と思った。だから、手を加えなければならないと思って作業したのは、1曲か2曲だけだ。だから「Picture of You」はコーラスの歌い方を含めて、ほぼオリジナルのままさ。それから「All Because of You 2」や「Are You Gonna Wait Forever?」なども正にそうだ。ほとんど手を加えなかった。一方で「Treason」には歌詞が欠けている部分などがあって、ボーカル・パートを付け加えた。それから「Luckiest Man in the World」の一部は、元々は「Mercy」という曲から来ている。 ―「Evidence of Life」は、初めて耳にする曲でした。 ジ・エッジ:スティーヴがプロデューサーとして加わる直前に作られた曲だ。断片的なアイディアだけをスタジオへ持ち込んで、数日間で曲の形にした。確かドラムも僕自身で叩いたと思う。ドラムのプロではないから、曲全体を通じて演奏するのは無理だった。だから、上手く叩けた部分を8小節ずつ切り取ってつなぎ合わせたのさ。 物事は常に進んでいる。いろいろなものが脇へ追いやられて、振り返ることがない。B面の曲を検討する段階になって初めて立ち止まり、「どうしよう?」ってなるんだ。「Country Mile」や「Happiness」に関しては当時、「B面にするにはもったいない。いつかきっと日の目を見るだろう」と思っていた。 ―「Treason」はデイヴ・スチュワートがプロデュースしています。どのような経緯で仕上がった曲でしょうか? ジ・エッジ:南アフリカで開催したネルソン・マンデラのコンサートを前に少しレコーディングしていたが、その時点ではグルーヴとコーラスとギターの一部しか出来上がっていなかった。歌詞もなく、放置状態だった。でもU2らしくないユニークな曲で、とても気に入っている。 ―「Country Mile」を初めて聴いた時、「どうして今までリリースされなかったんだろう?」と思いました。 ジ・エッジ:これもお気に入りのひとつだ。ラジオ向けにイントロ部分を少し変えたバージョンもある。僕はそっちの方が好きだ。作った当時は、メインの歌詞が今とは違っている。「Country Mile」の歌詞は、曲を焼き直しながら作り上げていった。当時はこの曲の歌詞の内容が、アルバムの他の曲で既に網羅されているような気がしたんだ。今振り返ると、「僕たちは何を考えていたんだ?」と思うけどね。 ―ファンキーなグルーヴの「Happiness」も同じく素晴らしい未発表曲です。 ジ・エッジ:これもまた、時間の制約で最後まで仕上げられなかった曲のひとつだ。アルバムをリリースするまでの締め切りに追われて、妥協せざるを得ない時もある。「こっちにするか、それともこっちがいいか?」という中で、どういう判断だったのか覚えていないが、その時もまた歌詞が未完成だった。作りかけの曲をたくさん抱えていたが、「いい曲だから、いつかリリースしよう」と思ったのを覚えている。 ―「Are You Gonna Wait Forever?」は、ブライアン・イーノとダニエル・ラノワも加わった『All That You Can’t Leave Behind』のレコーディング・セッション時に作られた曲ですね。 ジ・エッジ:そうだ。僕たちは基本的に1枚のアルバムで完結させるんだが、次のアルバムに取り掛かる時にアイディアが継続することもある。例えば(『How to Dismantle an Atomic Bomb』に収録の)「City of Blinding Lights」は、『Pop』のセッションで原型が作られていたが、最後まで仕上げられなかった。でもこの曲を完成させて収録するにあたり、クリス・トーマスが大きく貢献してくれた。 ―「Theme From The Batman」も初めて聴いた作品です。これはバットマンのどのシリーズ向けに書かれた曲ですか? ジ・エッジ:以前、バットマンのアニメシリーズ向けのテーマソングを依頼された時に作った曲だ。YouTubeなどには上がっているかもしれないが、U2のレコードとしてはリリースしていなかった。だから今回「収録しよう」ということになった。 ―ご自身でプロデュースして、ミュージシャンとしてのクレジットもあなただけです。まるでジ・エッジのソロ作品のようです。 ジ・エッジ:正にその通りさ。でもこの曲も、あの時、あの時代に生まれた作品だし、今回のコレクションは、当時の僕たち全員の考え方や志向をよく知る上で意義深いアルバムだからね。 ―「All Because of You 2」は明らかに「All Because of You」の初期バージョンですね。 ジ・エッジ:そうだ。ボーカルと歌詞に少し手を加えて、バッキング・ボーカルを新たにアレンジした。でも、当時の僕たちが目指していた要素は凝縮されていると思う。エネルギッシュな曲だったが、メロディに満足が行かなかった。だからアルバムに収録するために焼き直した結果、よりメロディックな仕上がりになった。でも作品として完成したとはいえ、何かが失われたような気もした。今回取り上げた「All Because of You 2」には、どこか惹きつけられる純粋さを持ったありのままの姿が感じられる。