世界遺産「知床」:安全確保と自然保護で揺れる-観光船沈没受けた基地局建設が中断
双方が話し合う場を
知床の保全と利用の在り方を専門家や地元関係者が話し合う「知床世界自然遺産地域適正利用・エコツーリズム検討会議」座長の敷田麻実・北陸先端科学技術大学院大学教授(観光学)は、「携帯基地局は、安全性の面から、無いよりはあった方が良い。しかし、世界自然遺産のエリア内においては自然や景観の保護も重視すべきで、どちらかに偏った議論は避けるべきだ」と強調。今回の問題と今後の対応については、「混乱が起きたのは、自然保護運動を担ってきた人や科学委員会に対して議論の過程で十分な説明がなかったことも大きい。建設推進派、自然保護派、第三者がともにテーブルについて議論し、衛星電話など携帯電話以外の安全確保策も十分検討したうえで、一段レベルの高い合意点を探す作業が必要になるだろう」と指摘している。
太陽光パネルのトラブル全国で
知床のケースは、日本の端で起きた異例の出来事なのだろうか。知床の問題の本質は基地局そのものだけではなく、電源を確保するための大きなソーラーパネルや電源ケーブルの埋設も含めて、どう自然環境と両立するのかだ。 総務省が太陽光パネルの設置が多い24道府県の市町村に調査したところ、4割でトラブルが発生していた。多くの事例で、景観との調和や設置後の周辺の環境整備などが問題点として指摘されている。国の再生可能エネルギーの推進政策によって設置が広がる太陽光パネルだが、知床に限らず、日本中の広範なエリアで地元との軋轢(あつれき)を生んでいることから、経産省幹部も今後のパネル設置拡大の課題のひとつとして地域との意見調整を挙げている。 知床の事例は着地点が見えていないものの、双方が歩み寄ることができれば、環境と再生可能エネルギーの結節点で起きる問題解決のモデルケースになるとみられる。
【Profile】
松本 創一 ニッポンドットコム編集部チーフエディター。慶応大学文学部卒。北海道新聞に23年間在籍し、冬季五輪、ソウル支局、道庁、札幌市役所、北方領土を抱える根室支局などを担当した。2024年4月から現職。趣味は観劇、街歩き。