本の要約サービスなぜ人気?タイパ時代に求める「効率的な出会い」
本と人とを「マッチング」
本1冊の内容を10分程度で読める数千字にまとめた「書籍要約サービス」が注目を集めています。短い時間で最大の効果を得る「タイパ」が重視される今、「忙しくて本をじっくり読む暇がない」「本選びで失敗したくない」といったニーズをキャッチ。出版業界には、読書離れを食い止める切り札だと期待する向きもあるようです。最大手「flier(フライヤー)」を運営するフライヤー(東京都千代田区)執行役員の井手琢人さんに、おすすめの利用法などを聞きました。 「flier」は、話題の新刊やロングセラーの名著を厳選して、約4000~5000字に要約しています。2013年のサービス開始から現在まで約3800冊の要約を配信。隙間時間にスマホなどでサクッと内容をインプットできるとあって、無料会員と有料会員を合わせた累計利用者数は、約120万人に達しました。 自社の編集者や大学教授、新聞記者、ライターら約50人が、著作権者の承諾を得た上で要約を作成。テキストだけでなく音声も提供しているほか、本のおすすめポイントなども併せて紹介しています。 しかし、読書とは本来、じっくりと活字に向き合う時間そのものを楽しむ行為のはず。「時短」「効率的にインプット」という考え方は邪道なのでは――というツッコミも聞こえてきそうです。 井手さんは、サービスのコンセプトを「短時間かつ高い精度で1冊の内容を把握できること」とした上で、それにとどまらない「本との出会いを提供したい」と力を込めます。 「気に入れば、実際に購入してじっくり読んでいただきたい。本を買うかどうか以前に、読書の入り口にすら立っていない人たちも多いです。そういう人たちの背中を押せたらいい」。まずは効率よく「きっかけ」をつかみ、相性が合いそうなら深いおつきあいへと進む。要約サービスは、本と人とを結ぶ「マッチングアプリ」のような存在なのかもしれません。
「忙しい」「時間ない」人向きのジャンルは
文化庁の「国語に関する世論調査」(2023年度)によると、「1か月に本を1冊も読まない」人は6割超と、「読書離れ」は加速しています。「読まない理由」として多かったのは、「スマートフォンに時間を取られる」「仕事や勉強が忙しい」など。 「『本を読むのがつらい』という声もよく聞きますね」と井手さん。「つらいのは、最初から最後まで順に読もうとするから。途中で『面白くない』と感じると挫折してしまう。それによって、読書への苦手意識が芽生えてしまいます」と指摘します。 では、読書が苦手な人は、どのようなジャンルから手をつければいいのでしょうか。井手さんが推すのは「ビジネス書」です。物語としてのドラマ性を期待できない点でハードルが高い気もしますが、「むしろ読みやすい」と太鼓判。専門知識がなくても読める平易なものが多く、テーマや目的も明確なので、自分の関心にあった本を選べるそう。 「小説の場合は、最初から順に読まないとストーリーが追えません。でも、ビジネス書は、目次を見て興味のある章から読むのも、パラパラめくって面白そうなところだけ拾い読みするのも『アリ』です。気に入ったら、同じテーマの本や、同じ著者の別の本へと広げていけばいい。そうして読書体験を積んでいけば、本を楽しめるようになるはずです」