「本当の贅沢とは何か」 赤面症、引っ込み思案…京都の老舗料亭・和久傳の女将を大成させた「お寺修行」の気づき
バブル期だけに当時の金利は9%近く。さらに「室町和久傳」という名前にするなら「使用料を」と綾さんから言われ、「私も払わないと気が済まないわ」と了承しました。「おかしいですよね」と笑いながら振り返りますが、毎月の返済額と使用料だけで150万円ほどで「初日からショート寸前」だったそうです。 桑村「伝票がいるということさえ、わからなかった。でも、雇用保険や給与の計算とか、支払いとか請求書を出すとか、とにかく自分でやってみないと気が済まない性分なんです。母もそうなんですが、泳ぎ方を覚えてから飛び込むんじゃなくて、飛び込んでから溺れそうになりながら泳ぎ方を学ぶ。やり方がアホなだけなんやけども」 こうして、お寺での静かな日々から一転、忙しい生活が始まりました。もちろん高台寺和久傳で手伝いをしていたとはいえ、経営的な知識はありません。クレジットカードが普及し始めたころでしたが、カード払いだと入金が1カ月ほど先。官公庁のお客さんからの支払いは1年後ということもありました。従業員に給料が払えず、「1日だけ待って」と頭を下げたこともあるそうです。
そんな時期を乗り切ることができたのは、丹後から京都市中心部に出てきて料亭を開いた母・綾さんの姿を見ていたからかもしれません。 いまでこそ有名料亭になりましたが、移転当初は京都でも和久傳のことを知る人は多くありませんでした。信頼もなく、仕入れを付けで買うことはできません。「昨日いただいたおカネで買いにいくしかなかった」と聞かされていた話が桑村さんの脳裏にあったそうです。 “逃げ腰”だった桑村さんの感性と、母から受け継いだDNAが、のちに事業的に大きな成功となったおもたせの店「紫野和久傳」など、“新たな料亭のカタチ”を生み出していったのです。 取材・文:山本奈朱香 撮影:松村シナ 編集:鈴木毅(POWER NEWS) デザイン:山口言悟(Gengo Design Studio)