【解説】拉致被害者家族会 踏み込んだ“制裁解除”苦渋の判断のワケ 岸田首相に「必ず動かして」切実な訴え
■いつ、何があってもおかしくない年齢に
88歳の横田早紀江さんは去年、自宅で倒れ一時入院。車椅子での生活を余儀なくされている有本恵子さんの父・明弘さんは、95歳になっている。また、2020年、横田めぐみさんの父・滋さんと、有本恵子さんの母・嘉代子さんが死去。2021年には、家族会代表として活動の最前線に立ってきた飯塚繁雄さんが亡くなった。 再会がかなわず無念のままにこの世を去っていった家族たち。政府認定でまだ帰国できていない拉致被害者の家族のうち、親の世代が健在なのは、早紀江さんと明弘さん2人だけになってしまった。
田口八重子さんの長男・飯塚耕一郎さん(47) 「人の命の重みが時間の経過とともに心にすごく押し迫っている」 横田めぐみさんの弟・哲也さん(55) 「無念の中で亡くなった方も多いが、せめて今残っている親世代の2人には、幸せを享受してもらいたい」 いつ何があってもおかしくない年齢になった親世代の家族たち。前提条件とする「“存命のうち”の解決」には、タイムリミットが迫っていることへの家族らの焦りと切実な思いが込められている。
■単に制裁解除に傾いたのではない
家族の置かれた深刻な状況を踏まえ、苦渋の判断で“対話路線”により踏み込んだ今回の活動方針。ただ、家族は「単に制裁解除に傾いたのではない」と強調した。 今回の方針でも、親世代が存命のうちに被害者の帰国が実現しなければ、逆に、「強い怒りを持って独自制裁強化を求める」と併記している。「制裁解除に反対しない」のは、あくまでも、“親世代が存命のうち”の解決が前提条件であり、そこはゆずれないというのが家族の主張なのだ。 横田拓也代表 「北朝鮮が拉致被害者の即時一括帰国を果たさない限り、制裁の手を緩めることはありません。万が一、親世代が亡くなった後に、被害者を帰国させても解決とはみなさない」
■“異例”…北朝鮮の動きを注視
一方で、北朝鮮の“異例”の動向を家族らは注視している。 今年1月1日に発生した能登半島地震に対し、金正恩総書記は岸田首相に当てて、見舞いのメッセージを送った。また、2月15日には、金総書記の妹・与正氏が談話を発表。日本政府が「関係改善を開く政治的決断を下せば、両国はいくらでも新しい未来を共に開いていくことができる」などとし、「首相が平壌を訪問する日も来るだろう」と言及してみせた。 ただ、談話の中で「拉致問題は解決済み」と釘も刺した与正氏。この点について横田拓也さんは「到底受け入れることができない」と言うものの、談話そのものについては北朝鮮からの「歩み寄りのサインの可能性」もあると考えている。 「またとないチャンスを、どうか具体的につなげていただきたい」拓也さんは、岸田首相との面会の場でも強く訴えた。