バスケ男子日本代表のテクニカルスタッフを務める冨山晋司氏がスタッツで語る『注目すべき4つのポイント』(前編)
2Pシュートと3Pシュートの割合やフリースロー数は合格
昨夏のFIBAワールドカップでアジア勢1位となり、パリオリンピックへの出場権を獲得したバスケットボール男子日本代表。12カ国しか出場しないオリンピックではより強豪との対戦ばかりとなるが、ここで日本が目標に掲げる決勝トーナメント進出を達成するためにはワールドカップで見せたモノ以上の内容で戦う必要がある。 同ワールドカップ前には日本バスケットボール協会・技術委員会テクニカルハウス部会の部会長で、男子代表のテクニカルスタッフを務める冨山晋司氏に、観戦歴の浅い人も含めた幅広いファンへ向けて『注目すべき4つのポイント』を紹介してもらった。 日本はワールドカップでこの目標値とも呼べる4項目に関してどこまで迫り、クリアができたのか。パリ五輪でも変わらず重要項目となるこの4点について、ワールドカップでの『答え合わせ』の意味も込め同氏に再度、話を聞いた。 ──トム・ホーバスHCのチームにおけるオフェンスは、得点期待値の上がるペイント内へのアタックと3Pを重視しているということで、2Pと3Pの比率が約半々になるところを目標として挙げられていました。ワールドカップでは1試合での2Pと3Pの試投数はそれぞれ32.2本、32.6本とほぼきれいに半々の形となりました。 そうなんです。もう少し細かいデータで言うと、ワールドカップでの5試合でのペイント内での試投数は全体の44%で、3Pは50%だったんですけど、ここにペイントの中でもらったフリースローを足すと170本(FGが143、シューティングファウルが27)で48%。そして3Pを打った本数が160本で46%。なので、おおよそフィフティフィフティに近い数字で、良いバランスでオフェンスができたんじゃないかと言えます。 ロング2P(ペイント外からの2Pシュート)は19本だけで、1試合平均だと3.8本。これは東京オリンピックで銀メダルを獲った女子日本代表の数字とほとんど変わらないので、徹底できていたと言っていいですね。男子は東京オリンピックで42本のロング2Pを打っているので、1試合あたり14本でした。 ──2Pと3Pの比率を五分五分にするという中でも、リングに近い場所から打つのが大事ということでしょうか。 そうですね。必ずしもフィフティ・フィフティにならなきゃいけないってことはないですし、フィフティフィフティになると、何故良いのかという裏づけがあるわけでもありません。 僕がウェビナーなどを開催する際にも「日本は3ポイントをたくさん打ちたい」って思っていらっしゃる方がたくさんいるんですけど、そうではありません。あくまでペイント内にも攻めたい、フリースローももらいたいという中で、ペイントの中にはルディ・ゴベア(NBAティンバーウルブス、フランス代表)やビクター・ウェンバニャマ(NBAスパーズ、フランス代表)といった、とんでもないリムプロテクターがいたりしますし、ウイングの選手だって2mを超えているような世界観なので、そういう選手をペイントの外に連れ出さなきゃいけません。 だから、全員が3Pがあるというふうに思わせられるようなバスケットをしたいというのが根底にあって、フィフティフィフティぐらいがトムさんの経験上、一番バランスが良いと思ってるというところです。 ──パリオリンピックでは試投数を半々にすることはもちろん、3Pの確率を上げなければいけませんね。 ワールドカップでの3Pの確率は全体23位の31.3%と全然良くなかったので、こちらは問題です。ただ、32.6本という試投数自体は全体で4番目に多く、これは東京オリンピックから比べると10本くらい増えていますし、トムさんのバスケットに変わってこれだけアグレッシブにできるようになったということです。 確率が悪かった要因の1つが『キャッチ&シュート』で、27%(全体の29位)しか入っていません。プルアップ(ドリブルからのシュート)からの3Pとなると、日本の確率は38.7%と上位だったのですが、平均本数は4.8本で大会の1位だったんです。意外な数字ですよね。プルアップは、富永啓生選手(66.7%)、比江島慎選手(55.6%)、富樫勇樹選手(35.7%)あたりが決めていました。 ──キャッチ&シュートの確率が27%では、パリオリンピックで強豪を倒すことは難しいですね。 そうですね。これをワイドオープンでコンテストされていなかったキャッチ&シュートの3Pに限定しても、決めているチームは50%以上記録しているんですよ(1位はリトアニアの51.5%)。でも日本は34%(26位)しか決めていない。これがコンテスト(相手がブロックしようとすること)されていると日本は20%にまで落ちてしまっています。 ──シューティングファウルの本数のお話もありましたが、これもやはり大事だったのでしょうか。 フリースローをもらっている割合で言うと、ワールドカップでは13.1%(100ポゼッションあたりでフリースローをもらう割合)で、参加32か国中、12位でした。これが東京オリンピックではダントツの最下位の6.6%でしたから、約半分だったということですね。この13.1%というのは相当良いと思います。 ──ワールドカップではジョシュ・ホーキンソン選手が1試合平均で9本ものFTを打っていたのですね。 はい、それが大きいです。フリースローの試投数でいうと、日本の東京オリンピックでの本数が10.7本でワールドカップでは19.6本。ワールドカップ全体では18位でした。 ここは結構大事なポイントです。ワールドカップでオフェンスのPPP(ポインツ・パー・ポゼッション、1回の攻撃における得点効率で一般的に『1』を超えると良いとされる)が高かったチームが最終成績も良く、順位に比例しています。ではこれをディフェンスのPPP(低い数値の方が良いディフェンスをしていると言える)で見ると、たとえば1位はスペイン(0.896、スペインは決勝ラウンドに進めず、最終順位は9位)だったのですが、ディフェンスPPPのランキングの方は必ずしも最終成績に比例はしていません。 この傾向はBリーグとかでも比較的出てくるんですけど、やっぱりディフェンスよりもオフェンスが良いチームの方がこのレベルの戦いでは上位に来る可能性が高いです。 ──なるほど。ある意味、数字は嘘をつかないということですね。 あとは、シュートをどれだけ確率よく決められるかになっていきます。ペイントの話をしましたが、『アラウンド・ザ・バスケット』というペイントよりももっと小さい、要するにレイアップやダンクをするようなエリアからの得点の数字もあります。 ワールドカップで日本はこのアラウンド・ザ・バスケットの得点が平均29.6点でした。東京オリンピックでは30.3点だったのですが、確率は東京の57.9%からワールドカップでは62.7%へと上がっています。セルビアが1位で41点も取っているのですが、日本の62.7%という確率は全体の真ん中くらいで悪くないと思います。 日本はまた、フリースローをもらえる確率も東京の5.3%からワールドカップでは10.9%へとアップしています。こういったところが結構、大きな違いかなと思ってはいます。 アラウンド・ザ・バスケットを個人別で見ると、一番点を取っているのはホーキンソン選手で1試合8.6点。このエリアでの彼の確率は26分の20(76.9%)だったので、彼が引っ張ってくれたところはありますね。あとは渡邊雄太選手、河村勇輝選手、馬場雄大選手らが続いています。 ──こうしたアラウンド・ザ・バスケットの数字などを見ていても、現在の日本がより得点期待値の高いシュートを打つようにしていることを考えれば及第点と言えますか? 今はどうしても日本代表への期待値が上がっているので「世界の上に行くにはまだまだ」という話にもなっていますけど、過去の日本の戦いぶりを考えた時に、どれだけ日本がワールドカップでペイント内で点が取れていたんだという話で、真ん中まで行けていることも相当すごいと僕は思います。 2022年のFIBAアジアカップでも(アラウンド・ザ・バスケットの確率は)53.3%でしたから。あの時は渡邉雄太選手がケガで途中離脱しましたし、ホーキンソン選手も馬場選手もいませんでした。 ■男子日本代表の直近の国際大会での2P/3P試投数 2019年W杯 2P平均試投数41.6 3P平均試投数18.8 2021年東京五輪 2P平均試投数45.0 3P平均試投数28.0 2022年アジアカップ 2P平均試投数29.6 3P平均試投数40.2 2023年W杯アジア予選 2P平均試投数28.8 3P平均試投数36.2 2023年W杯 2P平均試投数32.2 3P平均試投数36.6 ──次にターンオーバーの数ですが、日本はワールドカップでオフェンスのターンオーバーを10から12以下に抑えたい、15以上してしまうと厳しくなってしまう、といったお話でした。 ターンオーバーの数字はあまり良くなくて、1試合平均で13.8本、攻撃回数あたりで15.4%(全体20位)ターンオーバーを創出してしまいました。だから、目標として挙げていた数字よりは少し多かったです。 一方で、特別に悪かった試合があったというわけではなく、初戦から13個、14個、15個、13個、14個という感じだったので『Too Bad』だったわけではありません。一番ターンオーバーの少なかったチームで10.4本(ギリシャ、ラトビア)で、日本は13.8本だったので、1試合に3つくらいの違いなわけです。 ──例えば、ターンオーバーが3個減ったら得点がどれぐらい抑えられる、といったデータはあるのでしょうか? トランジションディフェンスのところでそれは出てくると思いますね。ターンオーバーが3個減るということは3回シュートが増えていると言えると思います。3個ぐらい減らせたら3点増える、そんなイメージです。 ──ワールドカップ前には、「やっていいターンオーバー」と「やってはいけないターンオーバー」のお話をしていただきましたが、これは数字には出にくいものでしょうか? データにはしていないですが、ワールドカップで日本がしてしまった60いくつかのターンオーバーの中にはショットクロックバイオレーションやオーバータイムも含まれているので、そういうのを除いたいわゆるライブターンオーバーのようなものが50個ぐらいあったんです。 その中で、ドライブで狭いところに行って、自分についている相手の隣のディフェンダーの手に引っかかってターンオーバーみたいなのが多かったんです。それについては、このあいだの(FIBAアジアカップ予選)ウィンドウ1から選手に映像を見せて、こういうターンオーバーを減らしていこうというのは言っています。今回(シーズン後)の合宿でも結構言いました。 ──先ほどあったペイントへのアタックが求められる中で、そこを気をつけなければならないというのも難しいですね。 判断ですよね結局。今はジャンプストップでちゃんと止まれるかどうかなどをすごく意識させています。ジャンプストップで止まらずに狭いところに行ってターンオーバーするのだったら、それは我々のやりたいことと違うよねという話になります。 あとは、(相手チームの)隣のヘルプが来てるという話で、来ているんだったらもう1人がオープンになるから、そこをもっと強くいくのかそれともパスをするのかっていうところでやはり判断を求めていかなきゃいけないですよ。 ──日本代表がパリオリンピックで好成績を残すためには、ターンオーバーを減らすことは必須ですね。 10個にできたらベストです。ワールドカップでも14とか15しているチームはやはり良くかったですし、ターンオーバーが多いチームでトップ10に入ったところはないんです。セルビアやドイツ、少ないところが明らかに上位に行っています。ラトビアの躍進(ワールドカップ初出場でベスト8進出)もそういうところと関わりがあるのかもしれないですね。 ──ターンオーバーを減らす一番大事な要素はどれだけ判断力を良くできるかでしょうか。 判断力ですね。もちろん、ボールを強く持つこともそうだし、ちゃんとジャンプストップができることもすごい大事です。ジェイレン・ブランソン(NBAニックス)やジミー・バトラー(NBAヒート)などはめっちゃ止まれますから。あとはストレートのパスはディレクションされることが本当に多いので、ペイントの中ではバウンドパスをしようと言っています。 ■男子日本代表の直近の国際大会での平均ターンオーバー数 2019年W杯 14.6 2021年東京五輪 11.0 2022年アジアカップ 11.0 2023年W杯アジア予選 12.4 2023年W杯 13.8
永塚和志