金沢21世紀美術館の展示室が再オープン。「Lines(ラインズ)─意識を流れに合わせる」開催
今年元旦に発生した能登半島地震によって展示室の天井のガラス板天井が落下する被害を受けた金沢21世紀美術館 が、震災後初めて展示室を再オープン。展覧会「Lines(ラインズ)─意識を流れに合わせる」を開催する。会期は6月22日~10月14日。 本展は、英国の人類学者のティム・インゴルドの著作のなかでも、初めての邦訳となる『ラインズ 線の文化史』(左右社、2014)からインスピレーションを得て構想されたもの。世の中に存在するすべてのものを「線」という視点から考察し、線が私たちの生活や人間関係をどのように形づくっているかを、作品を通じて考えるという。 テーマはタイトルの通り「Lines/線」。コレクション作品から様々な線を見出すことのできる作品をピックアップして展示するほか、日本、ベトナム、オーストラリア、ガーナ、フランス、オランダ、デンマーク、チェコ共和国、アメリカ、ブラジルの10ヶ国から多種多様な文化的背景を持つ16作家(グループを含む)による35作品が紹介される。 出品作家は、エル・アナツイ、 ティファニー・チュン、 サム・フォールズ、ミルディンキナティ・ジュワンダ・サリー・ガボリ、 マルグリット・ユモー、マーク・マンダース、 ガブリエラ・マンガーノ&シルヴァーナ・マンガーノ、大巻伸嗣、エンリケ・オリヴェイラ、 オクサナ・パサイコ、 ユージニア・ラスコプロス、SUPERFLEX、 サラ・ジー、 ジュディ・ワトソン、 八木夕菜、横山奈美。 例えば、エル・アナツイの《パースペクティブス》(2015)は、廃材を織り込んで制作された高さ12メートルもの巨大なタペストリーで、人の手を介して有機的に絡まり合う様子を示るとともに、共有した時間の流れがそのまま織物となって顕現化されている。 また紙、金属、木、プラスチック、ボトルや椅子、電球のような拾い物など、日常生活に使われるありふれたモノを素材に組み合わせ、繊細で精緻なインスタレーションで知られるサラ・ジーは《喪失の美学》(2004)を展示。オブジェクトが組み立てられたり分解されたりする過程にあるような、絶え間ない流動的な状態を示唆するものだ。 横山奈美は実物のネオン管で言葉や消費されていくイメージを制作して、それを忠実に絵画に描くアーティストとして近年注目を集めている。《Shape of Your Words[In India 2023/ 8.1-8.19]》(2024)は、インドでの滞在制作を通して、初めて自分以外の人々が書いた「I am」という文字をコラージュした作品で、目と心に導かれた手の動きによる書き文字は、その瞬間のその人の意図、感情、思考を反映した独特の痕跡を生み出す。手書きの「Lines(線)」が、言葉の意味以上に心と身体と外界を直接結びつけている。 八木夕菜の《鯖街道》(2023)は50作品からなる連作。人々の往来を示すLines(線)として地図に残る「鯖街道」と呼ばれる道筋を、2021年から2年間にわたって料理家・中東篤志と共にたどり、写真として記録。その線としての足跡、人々の営みが収められたものだ。 「線」という極めて単純でありながらも、制作行為において基本的な要素をベースに、様々な実践を目撃できる機会となりそうだ。