20世紀の王道シナリオが「あり得ない」とひっくり返された…なんと、ミラーの「衝撃的実験」に惑星科学の進展が「再検討」を迫った
リボザイムの発見とRNAワールド仮説
タンパク質は触媒機能を持つので代謝はできるが、自己複製できない。核酸は自己複製できるが、触媒機能を持たない。つまりは両方ないとだめーーというところで、ニワトリとタマゴ論争はしばらく膠着状態となりましたが、その戦況を一変させるできごとが、1970年代末に起きました。 トーマス・ロバート・チェック(1947~)は、テトラヒメナという繊毛虫のRNAを研究していたとき、ふつうはタンパク質(酵素)による触媒作用がなくては起きないような反応が、RNAだけで起きていることを見つけました。つまり、酵素の働きもしているRNAがあったのです。 チェックはこのRNAを、RNA(リボ核酸)の「リボ」と酵素(エンザイム)の「ザイム」をとって、「リボザイム」と名づけました。これとは別に、シドニー・アルトマン(1939~2022)もRNAの触媒作用を研究していて、両者は1989年にノーベル化学賞を受賞しました。 リボザイムの発見を受けて、ウォルター・ギルバート(1932~)は1986年に、最初の生命はRNAから始まったのではないか、という解説文を『ネイチャー』誌に載せました。 そのなかでギルバートは、誕生したばかりの生命はRNAだけを用いて代謝も自己複製も行っていたとして、そのような生命だけが生きていた世界を「RNAワールド」と名づけました。 RNAワールドの中で、やがてタンパク質をつくりだすRNAが現れれば、タンパク質のほうがRNAよりも優れた触媒作用を持っているので、RNAは触媒作用をタンパク質にまかせるようになるでしょう。このステージは、のちに「RNPワールド」(Pはタンパク質)とよばれるようになりました。 最後にRNAは、自身の持つ情報を安全に保存しておくために、DNAをつくり出します。このステージを「DNPワールド」とよびます。現在の地球の生命システムはDNPワールドです。 こうした生命進化についての考え方を「RNAワールド仮説」とよんでいます。