「ヒトゲノムの8割は太古のウイルス」「遺伝子は想定の五分の一」…山中伸弥が解説するヒトゲノム計画で明らかになった「意外な事実」
「iPS細胞技術の最前線で何が起こっているのか」、「将棋をはじめとするゲームの棋士たちはなぜ人工知能に負けたのか」…もはや止めることのできない科学の激動は、すでに私たちの暮らしと世界を変貌させつつある。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 人間の「価値」が揺らぐこの時代の未来を見通すべく、“ノーベル賞科学者”山中伸弥と“史上最強棋士”羽生善治が語り合う『人間の未来AIの未来』(山中伸弥・羽生善治著)より抜粋してお届けする。 『人間の未来AIの未来』連載第8回 『将来は「全人類のゲノムを把握」…科学の常識を“破壊”した「ゲノム解析技術」驚異の最前線』より続く
ゲノム解読の可能性
羽生多くの人のゲノムが解析されていくと、具体的にどういうメリットがあるのでしょうか。 山中これまでは一つの病気に対してどの人にも同じ薬を投与して、効く人はよかったけれども、効かない人もたくさんいました。さらに、ある人には効くどころか副作用が起こってしまいます。人間には当然、個人差があります。その辺りがまったく予測できず、やってみなければわからないのが実情でした。 しかし、ヒトゲノムが解読されてから、ゲノム配列の細かな個人差が体質の差につながる可能性が明らかになっています。一人ひとりの“設計図”が読めるようになってきたことで、ゲノム情報から一人ひとりの病気のかかりやすさや薬の効き方を予測できるのではないかと期待されているんです。いわゆる「オーダーメイド医療」とか「プレシジョン・メディシン」(精密医療)と言われています。 実際、「東北メディカル・メガバンク計画」では、東日本大震災後に東北地方の何万人という人のゲノムを全部解読して医療情報とゲノム情報を組み合わせたバイオバンクを構築する計画が進んでいます。 ただ、ヒトゲノムの30億塩基対もの情報量が手に入るようにはなりましたが、問題はその意味がまだわからないことだらけ、ということです。今までほとんど知らなかった言語の百科事典が一冊簡単に手に入るようになった、でもそれを開いて見ても、何が書いてあるかまったくわからないページがいっぱいある――現状はそんなところです。