「103万円の壁」が引き上げられ、「106万円の壁」が撤廃される? 「年収の壁」の問題の本質はどこにあるのか
ここ最近、「106万円の壁」が注目を浴びているようです。国民民主党の掲げる「「103万円の壁」を178万円に引き上げる」という案に対し、「『106万円の壁』はどうするのか」という指摘が挙がっています。 ▼扶養内で働いてるけど、労働時間が「週20時間」を越えてしまった!「社会保険」に加入する必要はある? 筆者は、103万円の壁と106万円の壁について、「前者は税金、後者は社会保険に関する話なので制度上は別問題である」と捉えていますが、106万円の壁を撤廃するという議論まで報道されています。 今回は103万円と106万円の壁の問題をどのように捉えていけばよいか、考えていきます。
所得代替率を高めるために、106万円の壁をなくそうとしている?
7月3日、厚生労働省の社会保障審議会年金部会において、年金財政の検証結果が公表されました。 年金財政とは、公的年金の収支がどのようになっているかを示すもので、いわば年金の家計簿のようなものです。年金財政は5年に一度その状況が検証され、2024年の今年がその年に当たります。また、年金財政の検証と同時に「オプション試算」も行われ、ある内容をもとに試算した場合、どのような結果が導き出されるか、シミュレーションも示されています。 オプション試算の内容は、図表1のとおりです。106万円の壁の撤廃に関する項目は、「1. 被用者保険の更なる適用拡大 (1)被用者保険の適用対象となる企業規模要件の廃止と5人以上個人事業所に係る非適用業種の解消を行う場合(約90万人)」の部分です。 簡単にいうと、社会保険(健康保険や厚生年金保険)の加入要件の一つである「企業規模要件」を廃止するという点です。 図表1
※出典:厚生労働省「令和6(2024)年財政検証結果の概要」より引用 2024年の10月から、社会保険(健康保険や厚生年金保険)の加入対象者が変更されました。それまでは従業員が101人以上いる企業に勤めている方が対象でしたが、この基準が引き下げられ、従業員が51人以上いる企業に勤めている方も、社会保険に加入することになりました。 そもそも「106万円の壁」は、「年収が106万円を超えると、社会保険(健康保険や厚生年金保険)に加入する必要がある」という年収ラインですが、オプション試算では「被用者保険の適用対象となる企業規模要件の廃止」、つまり、企業で働く従業員の数に関わりなく社会保険に加入した場合のシミュレーションがされています。 そのシミュレーション結果が、図表2のものです。(1)のように、被用者保険の適用対象となる企業規模要件の廃止と5人以上個人事業所の非適用業種の解消を行う場合、新たに社会保険に加入する人は90万人増え、所得代替率は現行の推計である57.6%(2037年)から58.6%(2035年)に増加するとしています(成長型経済移行・継続ケース)。 図表2