「103万円の壁」が引き上げられ、「106万円の壁」が撤廃される? 「年収の壁」の問題の本質はどこにあるのか
※出典:厚生労働省「令和6(2024)年財政検証結果の概要」より引用 ここでポイントになるのが、「所得代替率」です。所得代替率は公的年金の給付水準を示す指標で、現役で働く男子の平均手取り収入金額に対し、実際に支給される年金がどの程度かを示す数値のことです。 簡単にいうと、「所得代替率=もらえる年金/現役男子の平均手取り額」となります。つまりここから分かることは、「もらえる年金を増やせば、所得代替率が上昇する」ということです。 それでは、もらえる年金を増やすには、どのようにすればよいでしょうか。 単純に、年金の加入者数が増えれば、国の保険料収入が増えるため、私たちがもらえる年金は増えます。年金制度はみんなで支え合う制度なので、「保険料を納める人が増えれば、所得代替率を高めることができる」という理屈です。 つまり、106万円の壁と呼ばれる年収ラインをなくせば、当然ながら社会保険に加入する人は増え、所得代替率を高めることができます。
103万円の壁が引き上げられ、106万円の壁が撤廃されるとしたら
前述したとおり、106万円の壁をなくせば所得代替率が上昇し、もらえる年金が増える可能性が高まります。しかし、106万円の壁をなくすと、社会保険料を納める人が増えるため、家計面ではマイナスに作用します。つまり106万円の壁撤廃は、国内総生産(GDP)の押し下げ要因といえます。 少子高齢化は今後進展する可能性が高いですが、このような社会環境のなかで、経済成長を遂げることが求められています。「働いたらみんな社会保険料を納める」という社会では可処分所得(収入から税金と社会保険料を差し引いた金額)が減るため、消費の抑制につながります。消費が抑えられると、経済成長を遂げることが難しくなります。 経済成長が遂げられなければ、企業の収益が伸びず、社員・従業員に支払う賃金も伸びにくくなるでしょう。賃金が伸びなければ納める社会保険料が少なくなり、もらえる年金も減り、所得代替率の低下を招く可能性が生じます。 しかし、それでも年金財政を維持するために、政府は社会保険の加入者を増やそうとしています。 現在は「103万円の壁」という所得税を納める年収ラインが、178万円に引き上げられる可能性が高まっています。一方「106万円の壁」という、社会保険に加入する必要のある年収ラインを撤廃し、社会保障制度をみんなで支えていこうとする動きが出てきています。 ここから見えることは「税制面では減税を行い、可処分所得を増やし、社会保険面では負担をお願いした結果、国全体としては経済成長が大きく毀損(きそん)せずに済む」という姿です。 「減税をする代わりに、みんなに社会保険料を納めてもらう」という意図が国にあるとしたら、私たちはどのように家計の運営をしていけばよいのでしょうか。それは、単純に働くということなのかもしれません。