【注目の裁判】「財産目的で殺害」か「無実の罪」か…真っ向から主張が対立“紀州のドン・ファン”殺害 12月12日に判決
■検察側は「被告以外に犯行可能な人物おらず、明確な犯行動機」
今回の裁判のように、状況証拠(=間接事実)のみから判決を決めなければならない場合の基準は、「被告人が犯人でないとすれば合理的に説明できない事実が存在するか」だとされている。すなわち、「須藤被告が犯人でなければ成立しえない事実がこれまでに示されたかどうか」が判断の大きな要素となる。 論告求刑で検察が強く訴えたのは「須藤被告以外に犯行可能な人物がいなかった」という点と「須藤被告には明確な犯行動機があった」という点だ。 前者について検察側は、防犯カメラ映像などから「第三者が侵入した形跡はなく、犯行時間は須藤被告と野崎さんの2人きりだった」ことやヘルスケアアプリの計測結果を改めて強調。 さらに、野崎さんに注射痕がなかったことや毛髪検査で覚醒剤が検出されなかったこと、インターネットに疎いこと、自力で覚醒剤を入手できたとは考え難いことなどを挙げ、自ら摂取した可能性は考えられず、第三者による摂取と考えるのが妥当だと指摘。その人物は須藤被告以外にいないと主張している。 また後者について、須藤被告の「完全犯罪」「覚醒剤 死亡」など、犯行を思わせるような検索履歴や「遺産相続」「妻に全財産残したい場合の遺言書の書き方」など、資産の引き継ぎを念頭に置いた検索履歴を大量に残している点を改めて指摘。遺産目的で殺害を計画していたのは明らかだと主張した。
■「検察側の仮説は想像の産物」立証の不十分さを弁護側が指摘
弁護側は最終弁論で、「検察側の仮説は想像の産物に他ならない」などと、検察の主張の不十分さ、曖昧さを強く指摘した。中でも特に時間を割いて言及したのが「覚醒剤をどのように飲ませたか」についてだった。 弁護側は覚醒剤を飲ませる方法を3種類挙げ、いずれの方法でも飲ませることは困難だと主張した。 ①「結晶のまま」 野崎さんの覚醒剤摂取量が3グラムだと仮定すると、市販の胃薬に換算した場合2~3袋と同量となる。なじみのない結晶状の薬をこれだけ多量に飲ませることは、常識的に考えて容易ではない。 ②「飲み物に溶かす」 仮に液体に溶かすことができたとしても、強烈な苦味ですぐに分かる。また、自らビール瓶を開けてグラスに注ぐことが多かった野崎さんに対し、事前にビールに溶かして確実に飲ませることは難しい。 ③「カプセルを使用する」 国内で流通するカプセルは2種類の大きさがある。3グラムの覚醒剤を内包するのに必要なのは、小さい方の規格で16~17個、大きい方の規格でも9~10個となるが、それだけ多量のカプセルを飲ませることは現実的ではない。 そのほか、須藤被告は覚醒剤の飲ませ方や致死量などを調べた形跡がなく、入念に準備していたとは言い難いと指摘。その上で、検察は手段の立証を「あえて避けている」とも述べ、「怪しいという状況のみで有罪とすべきではない」と改めて主張した。 全期日の終了後、裁判長から最後に言いたいことを聞かれた須藤被告は、短く、端的な言葉にとどめた。 須藤被告 「ちゃんと証拠を見て判断していただきたいです。よろしくお願いします」 検察側の無期懲役の求刑に対し、全面的に無罪を主張する弁護側―。果たして裁判員・裁判官はどのように判断をするのか。判決は12日に言い渡される。