意外な食材で楽しむ出汁のハーモニー/むぎが氏とワンルーム酒場(6)一人暮らしの独身女が作る自己愛おでん
飲むと言ったらわが家一択……!カクテルコンペティションにて特別賞を受賞し、バーテンダーの経験もあるYouTuberむぎが氏。YouTubeでは連日、晩酌の様子を配信し、「朴訥(ぼくとつ)とした語り口に癒やされる」「手際のいい調理は見ていて気持ちいい」「画面からお酒の味が伝わってくる」など話題沸騰中。お酒を愛し、お酒に愛されたといっても過言ではない彼女による、ワンルームで楽しむ晩酌エッセイ連載。連載第6回は、意外な食材で奏でる出汁のハーモニーを味わう、自宅でできる簡単おでんレシピをご紹介! 【写真】おでんと一緒に飲むと相乗効果でさらに味わい深くなる、晩酌で楽しんだ獺祭のロック 本人提供写真 ■一人暮らしの独身女が作る自己愛おでん 今日も疲れた平日のしごおわ。今年は残暑が長くて長くて、LOVE PHANTOMのイントロかよ!!!ってくらい長いですよね(笑うところです)。 ようやく寒くなってきたら次の日また暑くなったり、安定しない毎日。そのせいか私の繊細でか弱い体も体調が崩れ気味で、休みの日はお家でネトフリ観てはゴクゴク酒を飲み、YouTubeを観てはバクバクつまみを食い散らかす日々……くっ……全部残暑のせいだからな!!!! 仕事終わりの帰り道。今日も脳内晩酌ドラフト会議が行われる。 胃 「昼ガッツリ食べたから、さっぱり系でおなしゃす!」 肝臓「今日は休ませて!今日は休ませて!今日は休ませて!」 脳 「酒!ギルティ!背徳!酒!脂!」 脂肪「カロリーという名の友達、たくさん欲しい (・ ω ・) 」 理性「昨日も飲んだし、昼たくさん食べたから今日は控えめにするか……」 脳 「酒!ギルティ!背徳!酒!脂!」 なんだかんだ、いつも優先されるのは脳の指令である。とはいえ、今日はヒューと寒い風を肌に感じ、そろそろアレの時期だなと思い、今年初のアレを楽しもうと、行きつけのスーパーに寄る。 そうです、アレとはおでんです。おでんは家により人により具材・味付けはさまざまなこだわりがある。おでんを見ればその人の性格が見えるといっても過言では無い(過言)。私は一人暮らしなので、今日は自分の好きなものだけを入れ、私の私による私のための自己愛たっぷりのおでんを作ろうと思う。一人暮らしの特権だ。 スーパーに入り、真っ先に探すのは「大根」。大根がないおでんはおでんではない!というくらい私からも民衆からも王族からも愛されている(はずの)おでんの大根。もはや大根料理の中でもおでんにして食べるのが1番人気ではないだろうか。 次の具材は、はんぺんやちくわ、こんにゃくとか練り物が定番だが、個人的にそこまで刺さらないのでスルー。ごめんなさい。だけど、ボリュームも出したいので、厚揚げを選択。 あとは定番のゆで卵だ。お家に卵が無いのを思い出し、1パックだけカゴに入れる。肉類もなきゃ少し寂しいから定番の「ウインナー(私の好みはシャウエッセン)」もチョイス。ウインナーがあることで、おでんに安心感が出るのだ。 セルフレジへ向かい、せっせとお会計を済ませて家路に着く途中……はっっっっ!買い忘れた具材があったのを思い出した。スーパーまで戻るのはめんどくさいなぁと思いつつ、近くにファミリーマートがあったので入ってみる。コンビニならきっとあるはず……!少し変わり種なのだが、今日は絶対におでんに入れたい具材。その具材とは、「たこ焼き」! なぜたこ焼きを選んだかというと、以前入った関西風居酒屋でたこ焼きを出汁に浸けたお通しがでてきて(明石焼というのだろうか)、それがとろっとろで出汁の味が染みてて、とても美味しかったのだ。同じようなことをおでんでもできないかと考え、たこ焼きをチョイス。 ファミマに入り、奥の方の冷凍食品コーナーへ行く。もし、たこ焼きがなかったら、またスーパーに戻るしかない……ドキッドキッドキ……あったーーー!!!この感動は、ポッターがクィディッチで金のスニッチを手に入れた時の感動に近い……! 脳内ではポッターが金のスニッチを手に入れて歓喜してる時に流れるBGMが再生され、意気揚々とレジへ向かい、買い物ミッション完了。 無事にお家に着き、冷蔵庫から缶ビールを取り出しプシュっと開けごくごくと飲む。私のお家は、玄関のすぐ近くに冷蔵庫があるので、帰宅5秒ほどでビールを楽しめる酒好きのための間取りなのだ。 本日の缶ビールはカルディで120円くらいで買ったエンゲルヒェンというベルギーの発泡酒だ。賞味期限が近くなり安くなっていたので買った。お酒好きとしてとてもありがたい。味はフルーティでさっぱり飲みやすく、満足。一息つき、早速おでんを作ろう。 おでんは材料を煮込むだけだから余裕だ。まずは大根を輪切りにしてさらに半分に切り、DAISOで買った野菜蒸し器の容器に入れ、4分ほどレンチンする。こうする事で、大根を時短で柔らかくする魂胆だ。そうしている間にお湯を沸かし、卵を入れゆで卵を作る。……なんとスムーズで計算し尽くされた無駄なく美しい工程!四角い厚揚げはお洒落に斜めに切り、シャウエッセンは何もしない。ただ入れるだけで良いのだ。手がかからない子です。 次におでんの出汁を作る。1人暮らし用の鍋に水を入れ、醤油・みりん・ほんだしを入れ弱火にかける。みりんと間違えて料理酒を入れてしまったが……うん。逆に旨味がでるだろう(適当)。 レンチンした大根を取り出し、次に冷凍たこ焼きを表記通りの時間で温める。大根に箸をぶっ刺してみると、良い感じの柔らかさになっている。卵は9分~10分くらい茹でて、殻をむいていく。いつもゆで卵を作るときは、固め半熟が好きなので7分前後で茹でている。7分前後だと白身が柔らかく、繊細に慎重にむかなければいけないのだが、10分くらい茹でると白身も図太くなり何の気も持たずに雑につるっと剥けるのがうれしい。 諸々の準備が完了したので、あとは鍋に具材を入れるだけ。本物のおでんマスターなら、おでんを入れる順番・時間を考えると思うが、お腹が空いて今すぐにでも食べたいから、一気に全ての具材を入れる。大根・ゆで卵・厚揚げ・ウインナー。弱火でぐつぐつ。 レンチンしていたたこ焼きがあったことを思い出し、取り出す(たこ焼き忘れられがち)。鍋に4つほどたこ焼きを入れ、お腹が空いたので2個くらいはそのまま食べよう。ビールを飲み、たこ焼きを食べながらおでんが出来上がるのを待機。 本物のおでんマスターなら45分くらいぐつぐつ煮込むと思うが、晩酌に飢えた女は45分も待てません。煮込む時間は測らない。このビールを飲み終えたその瞬間。そのとき、おでんが完成する。逆を言えば、このビールを飲み終えない限りおでんは完成しないのだ(そうですか)。 最後のビールをゴクッと飲み、鍋の蓋を開ける。湯気がぐわっと立ちのぼり、おでんの懐かしげな香りが漂う。さぁ、晩酌の始まりだ。おでんに合うお酒を用意しよう。 私は晩酌にハイボールを選ぶのが多めだが、おでんは焼酎や日本酒といった和の酒で迎えたい。焼酎や日本酒のラインナップは片手で数えられる程度でその中に獺祭焼酎があったのを思い出した。 獺祭は山口県で作られる日本酒です。獺祭焼酎は、その日本酒を絞った後に出る「酒粕」を蒸留して作られるとのこと。度数は39%と焼酎の中では高め。 食器棚の奥に眠っていたロックグラスを取り出し、スーパーで買った氷を入れ、獺祭焼酎を注ぐ。優しく混ぜると、優雅で甘く華やかな香りが漂ってくる。かなり香り高い。獺祭焼酎ロックの完成だ。それでは今夜のお酒、いただきます。 獺祭焼酎ロックをチビっと飲む。……美味しい!日本酒の甘さも残り、香り高く力強い。口にフルーティな余韻も残り、とても飲みやすい。焼酎ということを忘れてしまいそうな味わい。 私は日本酒は好きなのだが、飲んでいくうちにプツンと記憶がなくなるので日本酒を飲む頻度は年に1回あるかないかくらい。だけどこの子は焼酎(蒸留酒)ということもあり、日本酒の味わいも残しつつ飲みやすい(飲みすぎると流石にダメだけど)。 さぁ熱々のおでんを食べていこうではないか。お取り皿にバランスよく具材を盛り付け、まずは大根からいただこう。ふーふー、と気休め程度に冷まし、大根を口に運ぶ。……あっつい!!!口の中が一気にヒート状態になり、少しづつゆっくり大根を噛むと出汁が溢れてきてほっくほくで美味しい! すかさず獺祭焼酎をちびっと飲む。はい、優勝。おでんの出汁と獺祭焼酎の柔らかい味わいがなんともベストマッチ!熱くなった口の中を冷たい獺祭焼酎で冷やす。このバランスのいい組み合わせ、口にしているだけでなんだかホッとする。 冬の屋台で嗜むおでんと日本酒は子どもの頃からの夢だった。今日はその夢に一歩近づいた気がした。煮込む時間が適当(短め)だったので、十分に味が染みている感じではなかったが、まだ染まり切らない自我のある具材たちに可愛さすらも感じる。 次に変わり種のたこ焼きを食べてみる。箸で持ち上げると、たこ焼きの生地がほろほろと崩れていくが、丁寧に箸で持ち上げ、口へ運ぶ。とろっとろで美味しい!!!おでんの出汁とたこ焼きの味が合う。これは、今後のおでんにぜひ率先して入れたくなる味わい。一気におでんランキングの上位に君臨しました。ただ、煮込みすぎて生地が崩れていくところが失敗だったかもしれない。今度はレンチンしないで、冷凍のまま鍋に入れてみることにする。そうすれば、理想のおでんたこ焼きができそう。 子どもの頃は、冬の時期におでんが出てきては「おでんはご飯のお供にならないよ!」と出してくれた親に対して一丁前なことを思ってあまり好きになれなかったけど、今はお酒のお供として良い関係を築けている。 厚揚げは、とりわけ大好きでもないがおでんのときは必ず食べてる気がする。大根と厚揚げは幼馴染のような存在(知らんけど)。豆腐が柔らかくなり、ふわふわでボリュームもあり、美味しい。ゆで卵もそこまで味が染みていないが、白身が固く黄身がほくほく。まさに「おでんのゆで卵」といった風格で、冬の味わいだ。それに、シャウエッセンは安定のパリパリ感。だけど、いつもよりクールでさっぱりとした味わい。唯一の肉で、入れるだけで一品として成立する手軽な食材だ。 いろんな具材を食べながら、ちびちびと飲む獺祭焼酎がおでんの味を引き立ててくれる。いや、おでんも獺祭焼酎を引き立てるからもはや、肉体と精神のような関係だ。 急ですが、今回のおでんをバンドに例えると、ギターボーカルの大根!!リードギターのシャウエッセン!!ベースの厚揚げ!!ドラムはゆで卵!!そして新メンバーのキーボード、たこ焼きぃぃ!!!……だいぶ厚みのあるおでんバンドが完成しました。 それでは皆様もお好きな具材で、おでんバンドをお作りくださいませ。