社説:天台宗の審理 性暴力訴え、対応真摯に
天台宗の50代尼僧が、性暴力を受けたとして、関わった僧侶2人の僧籍を剝奪する懲戒処分を同宗に求めている。天台宗務庁(大津市)は2人に対し、「懲戒審理が相当」とする判断を公表した。 今後、宗派内の裁判所に相当する「審理局」で懲戒にあたるかどうかを審議することになる。 尼僧は住み込みを強要された寺で、現在60代の男性住職から14年間にわたって性暴力や心理的監禁を受けたという。この住職の師で、尼僧の親族でもある滋賀県の80代男性大僧正に助けを求めたが、応じてもらえなかったとしている。 長年の性加害で尊厳を踏みにじられ、ようやく声を上げられたという女性の悲痛な告発を、宗派は重く受け止めねばならない。 第三者を交え、真摯(しんし)に審理を尽くした上で、厳正な対処と再発防止策を講じるべきだ。 尼僧によると、2009年に大僧正から紹介された四国の天台宗寺院の住職に、性行為を強要された。寺で暮らすように言われ、監視を受け家事をさせられた。「逆らうと地獄に落ちる」などと脅され、繰り返し性暴力を受けた。 大僧正は直接の加害者ではないが、尼僧が寺を出て弟子の性加害を訴えたのに取り合わず、戻るように指示したという。 尼僧は外部団体の支援で19年に住職を刑事告訴したが、嫌疑不十分で不起訴となった。同意のない性行為への処罰を強化する改正刑法は昨年7月からの施行である。 尼僧は1月に天台宗務庁に懲戒申告を行い、弁護士らと会見した。寺を逃げ出した尼僧への行為を認めた住職の念書や関連音声、大僧正への手紙の写しなども証拠として提出したと明かした。 尼僧は「住職は『仏様に見捨てられるぞ』『因縁なのだから逆らえない。自分を捨てろ』と脅した」と涙ながらに話した。心的外傷後ストレス障害で通院する。 今月11日、宗務総長名で2人は審理局に審理請求された。特に大僧正は過酷な行を達成し、宗派内で「生き仏」ともされる別格の存在といい、「おとがめなし」と見る向きも多かったようだ。 審理入りの判断は、税制優遇なども受け、公共性が高い伝統教団として当然だろう。自浄能力と信頼回復が問われる。 尼僧は6月、申告に対する宗務庁役員の面談では、威圧的な態度で証言を疑われたなどと「2次加害」を訴えている。公正な審理の人選や個人情報に配慮した透明性が欠かせない。