教員の裁判で傍聴席が満員「動員されているのでは…」尾行、質問状、記者会見。取材を重ねて組織の不祥事を明らかにした2か月半
3事件に共通していたのは「教員による児童・生徒への性犯罪事件」だということ。一部事件では被告が「横浜市の教員」と明かされたため、市教委の関与を疑う気持ちが強くなっていった。 ▽他社記者とも遭遇 取材を続けていくと、公判期日に複数の他社の女性記者と遭遇した。「なんでこんなに並んでいるんだろう」「これだけ大勢集まっているということは組織的な動員かも」「教育委員会とか、教職員組合だろうか」「もし動員なら、そんなこと許されるのか」―。そんな雑談を交わし、違和感や問題意識を共有した。 私たち記者は、傍聴するために長時間並ぶのも仕事のうちであり、最終手段としては、傍聴席を記者用に確保してもらうよう地裁に申請することもできる。だが、一般の傍聴希望者はそうではない。長い行列を前にして諦めて帰って行く人の姿も目にし、この状況を放置することはできないと感じた。 いずれにせよ、誰が動員をかけているのかを明確にしなければ始まらない。焦りが募った。 ▽尾行に成功も「理論武装」慎重に
4月下旬。傍聴席が満員となった公判に3人態勢で臨み、取材するとともに閉廷後の尾行を試みた。 何度も傍聴している私では警戒される恐れがあったため、別の記者が地裁前で待機。閉廷し地裁から出た男性を追いかけた。男性は横浜市営地下鉄に乗車し、上大岡駅(横浜市港南区)で下車。ラーメン屋で昼食を済ませ、横浜市教育委員会の出先機関「南部学校教育事務所」の入るビルへと姿を消した。 やはり、動員をかけたのは教育委員会だったのだ。疑いが、確信に変わった瞬間だった。 しかし、すぐ報じることはできなかった。記者個人の違和感や憤り以上の、専門家の見解を踏まえた取材が必要だった。ある弁護士は「最大の焦点は、動員の目的だ」と指摘した。憲法82条は「裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ」と定めている。裁判当事者の支援で傍聴人が多数集まるケースなどはあるが、市教委が「第三者の傍聴を妨害する」目的で動員をかけていたのだとしたら、それは極めて問題だ、ということだった。