教員の裁判で傍聴席が満員「動員されているのでは…」尾行、質問状、記者会見。取材を重ねて組織の不祥事を明らかにした2か月半
2024年3月、裁判取材を担当していた私(記者)は、教員が被告になっていると思われる、ある性犯罪事件の公判を取材するため横浜地方裁判所にいた。だが、傍聴席が満員で法廷に入ることができない。座っている人々の顔ぶれは、よく見かける傍聴を趣味とする人たちとも違う。誰だろう。強い違和感を覚えた。 【写真】公判11回、最大50人を動員 教員の性犯罪で横浜市教委
その後も、性犯罪事件で傍聴席が満員となるケースを次々と確認した。並んでいた人に聞いても、はぐらかされるばかり。「動員されているのではないか」「だとすれば、公開が原則の裁判で、そんなことが許されるのか」―。 私は同僚とともに、この人たちが公判後、どこに向かうのか突き止めることにした。裁判所から出た男性が姿を消した先は、行政機関が入っているビル。疑いが、確信に変わった瞬間だった。組織の不祥事を追った2か月間を振り返りたい。(共同通信=團奏帆) ※筆者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。 ▽情報提供をきっかけに満員の傍聴席を目撃 取材のきっかけは、2024年初めごろの、とある情報提供だった。共同通信横浜支局にかつて所属した記者から「まだ公になっていない小学校教員による児童への性犯罪事件で、公判が始まったらしい」という趣旨の連絡があった。 横浜地裁は毎日、その日予定されている裁判の期日を「開廷表」として地裁内で掲示する。私は教えられた情報の内容と合う可能性のある公判をリストアップし、次回期日を傍聴することにした。 それが3月、不同意わいせつ罪に問われた匿名の被告の第2回公判だった。
同僚と赴いたが、傍聴席は満員で、傍聴できなかった。廊下に漏れ聞こえてきた審理の内容などから、教員による児童への性犯罪事件であることが察せられた。 事前に報道された注目事件以外で、横浜地裁の公判の傍聴席が満員となることはまれだ。性犯罪事件では傍聴を趣味とする人らが訪れる場合もあるが、傍聴していた人々の顔ぶれは、よく見かける人らとも違っており、強い違和感を覚えた。 閉廷後の被告弁護人への取材や検察側への取材でも、「なぜ傍聴席が埋まっているのか分からない」と首をかしげられ、大量の傍聴人の詳細は分からずじまいだった。 ▽複数事件で「異様な行列」を確認 以降、匿名で審理され詳細の分からない性犯罪事件公判を片端から傍聴し、冒頭のものを含む3事件で同様の満員を確認。スーツや落ち着いた服装の男女がよそよそしく整列して長時間待っていた一方、傍聴中はメモを取ることもなく、事件への関心もうかがえなかった。不可解さから、並んでいた女性に「関係者の方ですか?」と話しかけたが「違いますけど、何ですか」と言葉少なだった。