初競りで一番マグロが2億超えも、魚食の衰退は深刻:魚の伝道師・上田勝彦氏は「調理への先入観」が原因と指摘
魚嫌いを、好きにさせる方法とは?
元水産庁職員で「魚の伝道師」と呼ばれる上田勝彦さんは、調理に対する先入観や誤解が魚食低迷につながっているとみている。 上田さんは、魚料理を敬遠する人は「手間が掛かる」「生臭い」「ごみが出る」「レパートリーが少ない」「骨が嫌」「肉よりも割高」という6つの理由を挙げると分析。そんな人の目の前で手際よく魚をさばき、手軽でおいしい料理に仕上げてみせるのが、ウエカツ流の“伝道”スタイルで、「先入観をひっくり返せば、あっという間にファンになる」と胸を張る。 それを証明したのが、2024年8月に開催された「ウエカツ先生の豊洲市場で親子おさかな料理ワークショップ」。約30人の親子を前に、上田さんはアジを丸ごと使い切る料理を伝授。さばいて刺し身を作ったり、あらを煮物にしたりすると、親はもちろん、子供たちも見事な手さばきと話術に夢中になっていた。 続いて、親子でアジの調理を実践。母親からは「魚が苦手だった息子が『おいしい、おいしい!』と夢中で食べるのを初めて見た」「家での魚料理が増えそう」といった感想が次々と寄せられた。そして、「意外と簡単にできた」と話す子のうれしそうな表情が印象的だった。
日本の魚食文化は多様性も伝える
上田さんは月に何度かは北鎌倉の鮮魚店「サカナヤマルカマ」の店頭に立ち、消費者と触れ合う。魚の調理・食べ方を伝える場合、「“レシピ”ではなく“仕組み”」を教えることにこだわる。 「魚をおろすとき、どこから包丁を入れるか、どう切るかで味が変わるので、最適化を図らねばならない。調味料の使い方もそれぞれ役割があって、煮魚を作るには、先に塩やしょうゆなどを入れてしまうと固くなるから、酒や糖分などを入れてから煮ていくとふっくら仕上がる」などと丁寧に教える。しっかりと仕組みを覚えれば、応用も利く。さらに手早く、無駄なく、おいしく調理できれば、臭いやごみも減り、割高感も払しょくできるという。 それでも、「魚食拡大」は一筋縄ではいかないだろう。ここ数年、イワシやサバなどは豊漁が続いているものの、消費が盛り上がっているわけではない。上田さんも「水産業界も今まで取りこぼしてきたものを見直し、拾っていく作業が必要。地道な作業だが、面倒くさがらずに続けていくことが大事」と語る。『サカナ伝えて、国おこす』というスローガンを掲げる上田さんは、さらにこう付け加えた。 「魚食を通じて感じてほしいのが“多様性”。日本で食べられる魚介類は非常に多彩で、地域や漁港ごとに取れる種類や大きさ、調理方法も違う。インバウンドにもすしだけでなく、郷土色豊かな魚料理をいろいろ味わって、できれば調理の仕方も知ってもらいたい」 頭で学んでも身につかないが、「舌や味覚で学んだことは身につく」という。魚をおいしく食べて、多様性を学ぶことは、日本の多様な魚食文化を守るとともに、生きやすい社会の実現にもつながるかもしれない。
【Profile】
川本 大吾 時事通信社水産部長。1967年東京生まれ。専修大学を卒業後、91年時事通信社に入社。水産部で築地市場、豊洲市場の取引を25年にわたり取材。著書に『ルポ ザ・築地』(時事通信社、2010年)、『美味しいサンマはなぜ消えたのか?』(文藝春秋、2023年12月)。