初競りで一番マグロが2億超えも、魚食の衰退は深刻:魚の伝道師・上田勝彦氏は「調理への先入観」が原因と指摘
かつてスーパーでは1杯100円で特売されていたスルメイカも記録的不漁。20年前の漁獲量と比べると、サンマ同様に10分の1程度まで落ち込んでいる。値段も高騰しており、居酒屋のイカ刺しもスルメイカではなく、漁獲量が好調なアカイカなどに切り替えているようだ。 「こうしたメジャーな魚種の不漁が、魚離れに拍車をかけている」と語るのは、大手スーパーで40年にわたってバイヤーを務めた小谷一彦さん。現在は魚食普及推進アドバイザーとして活動することもあり、「消費者は、品質・価格がマッチしていないと判断したら買わない。もう少し待てばもっと良いものが、もっと安く味わえるかもしれないと躊躇(ちゅうちょ)するうちに、魚食習慣がどんどん薄れてしまうでしょう」と憂慮する。このままでは「やっぱり秋はサンマだね」と言っても、若い世代には通じなくなるかもしれない。
魚の消費量は50年前の水準に逆戻り
魚離れは決して近年、始まったことではない。農林水産省の食料需給表によると、魚介類の年間1人当たりの消費量は2001年の40.2キログラムをピークに減少に転じ、2023年度は21.4キログラムとほぼ半減。およそ50年前の水準まで落ち込んだ。 対照的に肉類の消費は緩やかに上昇しており、11年度に魚消費を上回った後、その差は拡大の一途である。水産庁によると「世界では1人当たりの食用魚介類の消費量が過去半世紀で約2倍に増加し、近年もそのペースは衰えていない」というから、日本は世界の潮流に逆行しているのだ。
魚料理「好き」が7.5割で、健康にも良いが…
魚はなぜ敬遠されるのか―。農林水産省2019年度に実施した意識調査によると、魚介類を購入しない理由は「家族が肉を求めるから」「価格が高いから」「調理が面倒だから」が上位だった。EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)など水産物に含まれる健康成分についての認知度は高まっているものの、「消費を拡大するまでには至らない」(水産庁)のが現状だ。 かといって、魚を食べるのが嫌いという人が多いわけではない。水産関連企業などで構成する大日本水産会がまとめた「2022年 子育て世代の水産物消費嗜好動向調査」の結果をみると、「家族が魚類を食べることが好き」といった回答は74.8%。ただ、「魚類を料理することが好き」は30.2%にとどまっており、調理のハードルが高いことが魚離れにつながっているのが分かる。 ちなみに、同じ項目を肉類でみると「食べることが好き」は86.7%で、「料理することが好き」も50.4%と半分強となっており、魚料理の約3割を大きく上回る。