“山本由伸流”「常識外れの投球」はどのようにして生まれたのか
力じゃない、力――
山本が現在の投げ方にたどり着く上で、カギになるフレーズを聞いたのは2019年シーズン終盤、自身初タイトルとなる最優秀防御率を手中に収めている頃だった。 力じゃない、力――。 投球メカニクスで求めるものについて、山本はそう表した。 入団3年目に大きな飛躍を果たしたこの年、プロ野球ファンを驚かせた動画がある。2022年までオリックスのトレーナーを務めた鎌田一生が、山本がさまざまなパターンのブリッジをしている映像を自身のYouTubeチャンネルに投稿すると、SNSは「柔らかい」というファンの声にあふれた。 山本によると、体の柔軟性は天性のものではないという。トレーナーの矢田修が考案した「BCエクササイズ」に取り組み、「力じゃない、力」を追い求めているうちに身に付いた。 「いいピッチングをしたいから、やっている練習なので。ブリッジがきれいにできたらOK……ではなく。それをどうするか、というか。結局は『速い球を投げたい』『いいコントロールで投げたい』というのを求めているので。ブリッジができるのを求めているのではない、ということですね」 以前、山本は「力を抜いた中で、体全体で力を入れて(投球の)力をつくり出していく」とインタビューで答えたことがあった。そう問いかけたときに返ってきたのが、「力じゃない、力」という言葉だった。 山本や筒香(嘉智)が師事する矢田の下には、毎年のように新たなプロ野球選手が門をたたいてくるが、地道でハードな内容に「無理です」と離脱していく者も少なくないという。もちろん、どんな方法にも合う、合わないがある一方、奥にある「本当の理由」にたどり着かない者が多いと山本の目には映っている。 「BCエクササイズは例えばウエイト(トレーニング)みたいに100kg上がったとかがないから、本当に理解するのは余計に難しいと思います」
「体が勝手に動くようになってくる」
ブレス(Breath)、バー(Bar)、ボウル(Bowl)、ボード(Board)、ブリッジ(Bridge)の「5B」が根幹を成し、その組み合わせや派生を含めると300種類以上になるというBCエクササイズを通じて養うのは、自分の体の重心を感じながらズレを確認し、整えていけるようになることだ。体の中の筋肉(インナーマッスル)をうまく使えるように、体を一つにつなげて動かせるように考えられた体操を行っていく。 5Bとは別のエクササイズで前転や後転、横回り(足を緩やかに伸ばして床に座り、腰を軸にして横に回転していく運動)など動きがあるものができてくると、一連の動作として投球動作を入れていく。矢田によれば、こうしたエクササイズがピッチングやフィールディングの上達にも結び付いてくるという。 「例えばピッチャーだったら、ここの自主トレで行うのはエクササイズと遠投がメインになってきますよね。それをやっているだけで山本君はチームに戻ったら、『フィールディング、良くなったね』って褒められたそうです。『僕、何も練習してないのに』って。エクササイズをやっていることで、体が勝手に動くようになってくるんです。山本君、ピッチャーゴロをさばくのがめちゃめちゃうまいじゃないですか。特にそうした練習を集中的にしているわけではないのにね(笑)」 つまりエクササイズを地道に続けることで、自分の体を思い通りに操れるようになっていくわけだ。