Netflix新作アニメ「Tokyo Override」の監督にインタビュー!こだわりのエキゾーストサウンドと「ポップ・ノワール」な世界観に注目だ
──レースのシーンでは架空のモデルが登場するようですが、何かモチーフがありますか? 「レースに関しては特にYAMAHAさんチームとワールドビルディングチームでディスカッションを重ねた成果が思う存分に発揮されたと思います。このレースがエンターテインメントとしてだけでなく、AIによって最適化された東京という街のインフラのチェックの意味合いがあるという設定により、どういったバイクがそこに走っているのかという議論に進んできました。 その上で、バイクおよびライダーにはAIによる完全自動運転のもの、人間によるマニュアル操作のもの(アマリンというキャラクターとそのバイク)、そしてその二つのハイブリッドモデル、といった3タイプがある、という設定に辿り着きました。さらにバイクのデザインは上下の二層式になっており、ベースは基本的に共通のもので、上部をそれぞれがカスタマイズする、という形になっています。 この設定の上で、アマリンというキャラクターが操縦する唯一の人間主導モデルをYAMAHAさんが「人機官能」のスピリットでデザインしてくださいました。このバイクには、ライダーとの感覚的共有を可能にする皮膚のようなセンサーがシート部分に想定されるなど、人間と機械(バイク)が共存するあり方が表現されています。」 ──バイク以外のモビリティはとても未来的ですが、なぜバイクだけは変わらないデザインなのでしょうか? 「先ほどのご質問でもあった通り、全自動化されたモビリティの世界観での特殊な存在としてのバイク、という設定を考えた時に、そのバイクも特異な見た目のものになってしまうと、ただの御伽噺になってしまうと考えました。他の車、トラックが変であればあるほど、敢えて現代と変わらないバイクが走ることの意味が出てくると思います。 そこには設定上、今後ガソリン規制や気候変動が進んでいく中で消えていくかもしれない様々なモビリティプロダクトに対する想いもあります。もしかすると、未来のある時点から新しいモデルが作られなくなるとすれば、現行のモデルが「最後のモデル」になるかもしれない。それは広く言えばAIをはじめとしたテクノロジーの進化による生活環境や考え方の変化の中で今あるものが消えていく感覚に対する密かな抗いの様なものとして考えることもできるような気がします。」 ──近年はモビリティもIOT、AI化が進んでおり、バイクも例外ではありません。監督は未来のバイクも、現在と同じように自由なままだと考えますか? 「開発のディスカッションの中で、バイクは車と違い操縦者がいないと立つことすらできない、という話が出て、それがとても印象に残ったので作中にも反映しました。実際には自立するバイクが開発されているので、これがバイクやライダーのアイデンティティとして残らない可能性ももちろんあると思いますが、そのテクノロジーの有無に関わらず、バイクは車に比べ、より身体的にライダーに近いものであることは確かだと思います。 少し話がずれてしまいますが、この作品ではタッチパネルのようなものも登場しますが、メインキャラクターたち周辺には「ボタン」のある機械を配置するように意識しました。それは彼らがアナログな身体性の感覚をまだ大事にしている人たちだからだと思いますし、そんな彼らにとってバイクという機械、それは触れる物質的なものというだけでなく、音や振動といった感覚を与えてくれ、それによってつながることができるものは大事な存在なんだと思います。」