「バームクーヘン」「ラ コリーナ」、その神髄は「柿色」の秘伝書に 全ての菓子は創業時から変わり続ける ~たねやグループの事業承継 前編
◆色とりどりの「たねや」の花とは
「花」の一つが、グループ会社「クラブハリエ」のバームクーヘン。 1951年創業のクラブハリエは、たねやの洋菓子部門として始まり、日本における「高級ブランド」バームクーヘンの先駆けとなりました。 また、和菓子が主力の「たねや」にも「たねやカステラ」という人気洋菓子があります。 見た目とフワッとした食感は、一般的なカステラと全く異なります。 山本氏は「これが和菓子の技術。少しやり方を変えるだけで違うものに変化するんです」と胸を張ります。 2015年には近江八幡市に「ラ コリーナ近江八幡」をオープンさせました。 小川や田んぼなど日本の原風景を再現した敷地内には、「たねや」の全商品が勢揃いし、できたてを味わえるほか、職人の製作工程が見学できます。 今では年間400万人の来客を見込み、滋賀県ナンバー1の観光スポットになっています。
◆たねやの根本精神を伝える「柿の色」の冊子
こうした多彩な「花」を咲かせる一方で、山本氏は「変えてはならないものもある。その分別をしっかり大事にしないとダメ」とも強調します。 それは、山本家が、江戸期からずっと大切にしてきた根本精神だといいます。 山本家には、「末廣正統苑」というオレンジ色の冊子があります。 和菓子の原点は「柿の甘さ」にあることを忘れないため、柿がイメージできるオレンジを採用しています。 この冊子が、たねやの「バイブル」です。 もともとは口伝で引き継がれてきた内容を、山本氏の父・徳次氏が現代語風にまとめました。材木商や種屋だった頃から受け継ぐ根本精神を形式知化したのです。 2000人のスタッフを抱える「たねや」で、昔のように口伝では経営者の哲学を理解してもらうのは困難です。 バイブルは、全社員が所持しており、今の「たねや」の軸をささえる大きな役割を果たしています。 バイブルの中でも、山本氏が大事にしているフレーズが「私は生き生きする前進の心を持っていただろうか」です。 出来事はその日のうちに振り返って反省し、翌朝に新たなスタートを切る気持ちを持つこと。 失敗を引きずり続けると自信を失ってしまうので、失敗は新たな目標を掲げるチャンスであり、再び挑戦することが大切、という意味です。