“宙づり議会”濃厚な英国総選挙 独立やEU離脱の火種も
二大政党制が時代に対応できていない?
いずれにしても、英国の総選挙がグローバルな影響を与える可能性は低いでしょう。なぜなら英国の影響力が低下しているからです。 「米国との『特別な関係』の変化と米国自体の影響力の低下、新興国の台頭という大きな流れに加えて、ヨーロッパではユーロ圏の位置づけが良くも悪くも大きくなり、結果としてドイツの影響力が増していることが、英国の位置づけを変えたように思います。今回の選挙の結果発足する政権は多党連立か、少数与党で5年間の任期をまっとうできるかどうかも危ぶまれる状況ですので『英国の存在感の希薄化』には拍車がかかるように感じます」(伊藤上席研究員) また、日本貿易振興機構(ジェトロ)ロンドン事務所のレポート「英国総選挙2015の争点」では、二大政党支配の終焉と大衆政党の急拡大が指摘されています。 「欧州で近年共通して見られる現象だが、既成の中道政党に対する支持率が低下する一方、特定テーマやグループの利益を代弁する政党が支持を伸ばし、国政レベルでも発言力を獲得する勢力になってきている。これら新興政党は往々にして国家主義・大衆主義的な側面が強く、移民排斥を掲げる急進右派(極右)、急進左派(極左)政党も多い。殆どに共通するのは、EU統合に批判的で、EUが強いる緊縮財政に異議を唱えている」 大衆政党の拡大は今後に予定されている欧州各国の選挙(デンマーク、スイス、ポーランド、ポルトガル、スペイン)にも波及する可能性もあるでしょう。 遠い欧州の選挙が日本に影響を与えることはあるでしょうか。伊藤上席研究員は次のように分析しています。 「二大政党制の典型とされてきた英国の政治が大きく変わろうとしていることです。グルーバルな競争の激化もあり、英国に限らず、主流派の政党の政策に大きな差がなくなり、いわゆる左派政権の下で右派的な政策が、右派政権の下で左派的な政策が実施されるというケースは珍しくありません。今回の選挙で、キャメロン首相が保守党は『働く人のための党』とアピールしている点などは典型かと思います」 二大政党制という体制そのものが、グローバルな時代に対応できていない可能性がでてきているわけです。「こうした潮流が、異なった選択肢を提示してくれる非主流派の政治勢力への支持が広がる背景にあり、その流れを止めることはできないように感じられます」(伊藤上席研究員) 本来、左派的経済政策である金融緩和を保守政党である自民党政権が強烈に推進したということもこの一例でしょう。もしかしたら、政党政治という政治体制そのもののあり方を考えなおす時期に差し掛かってきているのかもしれません。 (ライター・宇城健弘)