「ブレードランナー」を思わせる、タイ発の近未来SF「イツカ、ミライハ」
Netflixで、ちょっと気になるタイトルのシリーズ作品が配信されている。「イツカ、ミライハ」で、制作国はタイ。日本の地上波テレビでは近年、タイのボーイズラブ(BL)ドラマが放送されるようになってきているが、今作はBLとは違って、例えば映画「ブレードランナー」を連想させる近未来が舞台の作品という。筆者にとって、BLもの以外では初めての「タイ発のドラマ」の視聴体験は、いい意味で予想を裏切られる結果になった。 【写真】宇宙で亡くなった妻をクローン人間としてよみがえらせようとするが… 「イツカ、ミライハ」の一場面
ディストピアな「20☓☓年」が舞台
「イツカ、ミライハ」は全4話。各話で登場人物が違うオムニバス形式だが、現在より時間の進んだ「20☓☓年」のタイや世界が舞台という設定が共通している。描かれるのは、バラ色の未来ではなく「ディストピア」な雰囲気が漂う世界という。 さっそく第1話「厄介者」を視聴した。テーマは「クローン人間」。あらすじはこうだ。ノン(パコーン・チャットボリラック)の妻ヌーン(ワラントーン・パオニン)は、医師でありタイ人女性初の宇宙飛行士。ヌーンは宇宙ステーション滞在の任務を負い、夫と宇宙規模で離ればなれになる。ヌーンは任務を終えて帰還する直前、酸素を供給するシステムが異常をきたし、他の飛行士たちと共に絶命する。彼女は変わり果てた姿で、地球に帰ってきた。 悲しみにくれるノンは、妻をクローン人間としてよみがえらせようと決意する。今作のタイには既に、クローン動物を生成する十分な技術はあるが、クローン人間を生成するのは違法とされている。それでも、と手を尽くすと、本人の記憶を取り出すために、脳の実物が必要なのだと知る。ノンは妻の遺体が保管された病院に潜入し、遺体を盗み出す。ヌーンは果たして「生き返る」のか?
「厄介者」って誰?
……と、第1話の計1時間21分のうち、ここまでで半分ほど。後半で、予想外の展開が待つ。ネタバレになるので詳しくは避けるが、最後まで見て、前半での描写ひとつひとつに筆者は納得した。ああ、だからヌーンの父親や妹は、家族をよみがえらせるのにあれだけ反対していたのか。タイトルの「厄介者」に込められた意味も判明する。もう少しだけ言及するなら、第1話では途中から驚きの人物が登場する。最後まで見てもらえれば、筆者が指す人物が誰なのかは、分かっていただけると思う。 映像も凝っている。現代は「iPad」などのタブレット端末が普及しているが、今作の世界では、無色透明のアクリル板のような端末に、デジタル画面が映し出される。ああ、自分(筆者)は生きている間に、この端末を手にできるかな……と空想してしまうくらい、なかなかに楽しめた。ただ、思い返すと、そういう〝未来予想図〟の描写につい引き込まれていたから、前述の予想外の展開に気付くスキがなかったのかな、とも思った。