「ブレードランナー」を思わせる、タイ発の近未来SF「イツカ、ミライハ」
全4話、どれが好き?
「イツカ、ミライハ」の第2話は、人間そっくりの「セックスロボット」が、第3話は仏教国のタイらしいのか、善い行いをすると「徳」のポイントがたまっていき、欲しいものと交換できるシステムが普及した社会が舞台になっている。第3話の主人公は「仏教の商業化」に苦い顔をする「伝統的」な僧侶だが、物語の途中からある考えが芽生え……。 最後の第4話の題は「タコ少女」。地球の環境破壊が進み、一日と間を空けず雨が降り続ける世界が舞台だ。太陽の光が降り注がない環境は、病気が流行する。世界はあらゆる病魔を防ぐワクチンの開発に成功するが、接種したら人体にある変化が起こるのを理由に、タイの首相は輸入を拒む。しかし、国じゅうに病気は広がる。鬱屈する民衆は、テレビの歌番組で「奇跡の歌声」を披露した少女に希望を見いだし……。 全話を視聴した筆者の好みで言えば、最もびっくりしたのが第1話の後半で、最も考えさせられたのが第4話の終盤だった。各話とも、それぞれに味わい深い結末が待つ。皆さんはどのストーリーがお気に入りか、視聴後のドラマ論を聞いてみたくなった。 日本で「海外ドラマ」と言えば欧米、韓国などで制作された作品が人気だが、近年は例えば中国、台湾、タイを含む東南アジア発の作品も続々とネットで配信されている。チェックする国・地域がどんどん増えていきそうで、うれしい半面、ますます時間がなくなりそうで大変だ、とも思う(もちろん、楽しむために見るのだけれど)。そして、そうした環境は「イツカ、ミライハ」で描かれている世界よりも「近い」未来に実現しそう、いや、もう実現しているだろうか。
渋谷の街で〝聖地巡礼〟?
最後に。「イツカ、ミライハ」には、日本の視聴者にとっては「おまけ」のように感じられる場面もある。全4話の中のある回で、東京の「渋谷センター街」の一角が登場する。話の本筋に深くは絡まないシーンだが「え、現地で撮影したの?」と、視聴後も気になっている。 久々に渋谷の街を〝聖地巡礼〟(?)してみようか。その気になれば、現地でスマートフォンを取り出して、ドラマの映像と照らし合わせることもできる。ん? それって、過去の人が想像した「ミライ」の姿だったのかも。思い返せば私が生まれた頃、スマートフォンなるものはまだ世に存在していなかったのである。私たちは既に今、すごい世界を生きているのかもしれない。 Netflixシリーズ「イツカ、ミライハ」は独占配信中。
毎日新聞学芸部記者 屋代尚則