国民無視の「年収の壁」には、もううんざり…!厚労省の「悪手」と財務省の「経済音痴」で野ざらしにされるこの問題に、私が一石を投じます!【経済学者の提言】
「社会保険料の壁」をぶっ壊せ…!
私は「社会保障」も税と捉えるべきだと考えている。実態として社会保険料も税とおなじく政府が強制的に取り立てているものだからだ。つまり、どちらも税と変わらない。 社会保障を税で賄っている国もある。デンマークとオーストラリアにはそもそも社会保険料がなく、オランダ、フランスも社会保障支出を保険料ではなく税で賄う比率が高まっている(田中秀明『「新しい国民皆保険」構想』18-19頁、慶應義塾大学出版会、2023年)。 そこで、税の原則に則って、「社会保険料の壁」の問題を考察してみよう。 財政学の教科書に、税は「公平」、「中立」、「簡素」でなければならないとある。このうち、「中立」と「簡素」について考える。 「中立」とは、税によって人々の経済的活動における行動を変えてしまうなど、まずいことが起きないようにすることだ。ところが、社会保険料の壁によって、人々の働き控えが起きている。働きたい人が働けないだけでなく、事業主まで困っている。パートさんから「これ以上働くと働き損になるので働けません」と言われる。これは、年末のかき入れ時にとんでもない迷惑で、誤った制度が人々を困らせているということであり、中立とは言えない。 「簡素」とは、なにか。税制が明確で単純であることだ。103万円、106万円、130万円、色々なところに「壁」のある制度は複雑で分かりにくい。社会保険料も税であるという認識に立てば、まったく「簡素」とは言えない。 現在の社会保険制度は、人々を働かなくさせ、かつ複雑である。税の制度としては最悪だ。 では、どうすればよいのか。答えを示そう。
「社会保険料の壁」をなくすためにやるべきこと
「社会保険料の壁」は、税と同じように、所得から基礎控除を差し引いたものから保険料を徴収すれば解消する。 財務省や財政学者からは、「そんなことをしたら、ただでさえ足りない社会保険料が減ってとんでもないことになる」と反論されるだろう。確かに、社会保険料の収入は減る。 しかし、減収分は悪税をなくすためのコストだと考えるべきである。そのコスト分で、どのくらい経済効果を見込み、国民のためのより良い制度を作るのかが大事である。 では、さしあたりどのくらいの社会保険料の収入が減るのだろうか。試算してみたところ、ずばり約5.4兆円である。この減額分がどのような効果をもたらすのかを考えていこう。 税と同様に社会保険料を徴収するとどうなるかを試算したのが、下の表である。所得階級ごとの平均所得、総所得、保険料収入を示している。 やや、見づらいかもしれないが、分かりやすく解説していくのでお付き合いいただきたい。 表は、所得階級ごとの平均所得から、現行制度と改革後の「所得総額」と「保険料収入」を比べたものである。赤字の部分だけを見ていただきたいが、ここで200万円以下の人が働き控えをしている人たちである。 表の保険料収入の「計」を見ると現行制度では29.4兆円である。ところが、壁である106万円を差し引いてから、14.74%の保険料を取ると保険料収入は、24.1兆円に減少してしまう。 保険料税の労働供給阻害効果がなくなることによって、保険料収入が100万~150万円以下の所得階級のところで3120億円増えているのだが、これではとうてい足りず、保険料収入が5.3兆円(29.4-24.1)減ってしまう。 これは、税で埋めなければならない金額である。 これは「まかりならん」というのが、財務省の意見だろうが、人々がより多く働くことによって所得は増える。 MS&Consultingのアンケート調査によると、壁がなくなれば月にあと30時間多く働くという結果が出た(「7割の女性が『年収の壁なければ、勤務時間を増やしたい』と回答」株式会社MS&Consulting 2023年5月24日)。この結果、所得の計は、233.3兆円から236.4兆円と3.1兆円増える。 これは労働所得だけだから、GDPはその倍の6.2兆円増えることになると推測できる。例えば、年末に人手を確保できるようになったお店の売り上げがきちんと伸びるからだ。 6.2兆円から3割の税が還流するだろうから、1.9兆円(6.2×0.3)の税収増となる。 よって、政府が社会保障基金に補填しなければならない金額は単純に考えれば3.4兆円(5.3-1.9)である。 GDPは6.2兆円増加している。しかも、これは地方税の減収を伴わないので、6.2兆円GDPが増大することによって地方税も増えることになるだろう。 では、この3.4兆円の減収をどう考えるべきだろうか。 制度改革によって、よりよい制度に変え、さらに経済効果を生むための、コストだと捉えるべきだろう。 この3.4兆円は、これまで複雑にして、人々の働く意欲をそいでいる社会保険料の「年収の壁」をなくす恒久的な解決策であり、壁をなくして手取りを増やし、またGDPをも増やすという理にかなった政策である。 ところが、きっと財務省や厚労省はこうした意見に聞く耳を持たないだろう。実際、現在、政府で議論されている対策は、ひどいものばかりだ。
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