レジェンド・澤は、本当に女子W杯に出場できないのか?
もちろん、実績や肩書だけで招集されるほど代表は甘い世界ではない。昨シーズンの澤は度重なる監督交代に伴うチームの不振に歩調を合わせるように、パフォーマンスに精彩を欠いた。なでしこリーグの連覇は3で途絶え、年末に行われた皇后杯では右ひざを負傷してしまった。 その時点における心技体がベストの選手が招集されるのが代表チームとなる。こうした原則に照らし合わせた結果として澤を選外とせざるを得なかったことは、アルガルベカップの代表メンバーに対する佐々木監督のこのコメントからも推察できる。 「現時点でのコンディションなどを鑑みて、相対的にベストなメンバーを選出した」 今シーズンのINACは日テレ・ベレーザでシーズン三冠を達成した実績を持ち、いまでも澤が慕っている松田岳夫氏が監督に就任。FW大野忍とDF近賀ゆかりが復帰し、DF鮫島彩もベガルタ仙台レディースから加わるなど、無冠に終わった昨シーズンと比べてチーム力が格段とアップしている。 澤を取り巻く状況も孤軍奮闘を余儀なくされた昨シーズンから一変するはずで、3月末に開幕するなでしこリーグの舞台で心身のコンディションを上げていくことが期待できる。オフの間のリハビリで右ひざのけがも癒えて、ゲーム形式の練習に参加できるまでに状態も上がっている。 もっとも、澤は3年前のアルガルベカップで良性発作性頭位めまい症を訴えて、ロンドンオリンピック前の大事な時期に戦線離脱を強いられている。ポルトガルとの往復は36歳の体に大きな負担をかけるはずだし、選手である以上は、ピッチに立てば全力でのプレーを自分自身に求める。 だからこそ、澤の力を認めた上で、「いまは無理をする時期ではない」とする佐々木監督の無言のメッセージが、今回の選外に込められていると見ていいのではないだろうか。澤もそれを受け止めているのか、アルガルベカップの選外となった直後には「また頑張ります」と前向きなコメントを発している。 澤の選外は、なでしこジャパン全体を取り巻く問題ともリンクしているといっていい。アルガルベカップに臨む22人のうち、実に16人をワールドカップ優勝メンバーが占めている。それだけ4年前のチームが突出していたわけであり、新戦力の台頭に伴う世代交代が進んでいない証でもある。 佐々木監督自身、ロンドンオリンピック後の2年間を「若い選手やいままであまりなでしこジャパンに関わっていなかった選手を招集してきた」と振り返っている。全体の底上げを図ってきたものの、結果としては不動のメンバーを脅かすような選手は現れなかったことになる。 なでしこジャパンが追われる立場に変わったこの4年間で、女子サッカー界の勢力図は大きく塗り替えられつつある。昨年はフランスが親善試合でアメリカとドイツの二強を撃破し、仁川アジア大会では若い世代の台頭が著しい北朝鮮とスピードとパワーの前になでしこジャパンが苦杯をなめた。 なでしこジャパンの武器であるパスワークをライバル国が取り入れ、それぞれの武器に融合させることでバージョンアップしている状況下において、日本だけが旧態依然のままでは連覇への道は困難を極める。新戦力を発掘できなかった以上は、残された3カ月あまりでの時間のなかで、個々のプレーの質や選手間のコミュニケーションといった細部を可能な限り高めていかなければならない。