無名のチームを「ニューイヤー駅伝」出場に次々導いた〝凄腕〟監督の激レア人生 選手実績ゼロ、派遣社員、給与未払い、リストラ…
そして2021年、またも上田さんから吉報がもたらされる。誘われたのは新設される「富士山の銘水」の監督。恩師は、こんな熱い言葉で励ましてくれた。 「山梨の企業だし、山梨学院出身の人間にやってほしい。それに、お前はゼロからチームを作り上げて、2チームもニューイヤーに行かせた実績がある。3チーム目なんて聞いたことがない。推薦するならお前だ」 ▽寮も合宿所も食堂も車もないが「最高の部員がそろった」 2022年春、富士山の銘水陸上部の監督になった高嶋さんを待っていた部員は3人だけだった。寮も合宿所も食堂も車も、何もない。食事は選手が自分で用意していた。 「それでも、文句を言う選手はひとりもいなかったんです。立ち上げのメンバーとしては最高の部員たちがそろってくれました」 翌2023年春、7人の新入生が加入。他チームからの移籍組や留学生も合わせ、メンバーは14人に。富士山に見守られながら走り込み、着実に力をつけた。11月3日、ニューイヤー駅伝の予選、「東日本実業団駅伝」へのチャレンジを決めた。
「初出場で予選を突破したいなと思っていました。ただメンバー14人中、箱根駅伝の経験者は4人だけ。大舞台での経験値が少なく、期待と不安は五分五分って感じでした」 23年の東日本大会は7区間76.9キロで争われ、上位12チームにニューイヤー駅伝に出場できる。富士山の銘水チームは11位に入った。 「純粋に嬉しかったですね。創部した時のメンバーが一人も欠けることなくニューイヤーに行くことが目標でした。達成できたのが喜ばしいです」 別々の3チームによるニューイヤー駅伝出場を成し遂げ、ここまで多くの人に支えられてきた半生を振り返った。「運が良かったに尽きるが、人生の師である上田監督との出会いは大きい。監督を通じてさまざまな人々と知り合い、ゼロからチームを作り上げるヒントやマインドを吸収していった」 選手からの信頼も厚い。篠原楓選手はこう語る。「練習面も生活面も、選手一人一人を間近で見てくれているイメージです」。主将の小林竜也選手も「個人の目標に合わせて柔軟に対応してくれる。チームとしての駅伝だけでなく、個人のトラック競技もサポートしてくれるので、非常にやりやすい」。
高嶋さんの目は、元旦の本番に向いている。「30位以内を狙いたい気持ちはありますが、選手がゴールした時に満足してもらえればそれでいい」