指示を出さない「イタリア人の上司」の指導には、コーチング理論に裏打ちされた「綿密な計算」があった
30歳の若さにして大手外資系IT企業のSAPの管理職に抜擢されたものの、部下との「1on1」がうまくいかず悩んでいた。そう当時を振り返る、ゼットスケーラー株式会社代表取締役・金田博之氏は、あるイタリア人上司との出会いによって、その悩みを振り切ったといいます。 そんな金田氏が考える、組織を活性化させるための管理職の振る舞い方について、同氏の著書『最高のリーダーは気づかせる 部下のポテンシャルを引き出すフレームワーク』から、一部を抜粋・編集して解説します。
■指示を出さない「イタリア人上司」との出会い 私が大学卒業後に就職した大手外資系IT企業のSAPにて、30歳のときに初めて管理職に昇進しました。幸いなことに、SAPには1on1ミーティング(以降1on1)の制度があり、定期的に上司と部下が面談をしていました。しかし当時は1on1やコーチングについての情報がいまほど豊富ではありませんでした。 当時の部下たちは私を上司というより先輩と見ていて、経験があるから選ばれたという理由で最初のうちは1on1で話を聞いてくれていました。
私が1on1で話していたのは主に数字の進捗管理で、どちらかというと部下を詰めるような感じになっていました。そのため、1on1は課題の指摘や改善の指示が中心で、一方通行のやりとりが続いていました。次第に1on1の雰囲気が重くなりました。 1on1が終わったあとに振り返っても、自分が話してばかりで、部下たちからの意見はほとんど上がってきませんでした。我慢できなくなった部下からは、「この1on1、意味がありますか?」「金田さんは男性には呼び捨てですが、女性にはさんづけで距離を感じます」などと言われ、1on1の進め方を見直すことにしました。
部下との1on1に悩んでいるときに出会った上司がミケレです。ミケレはイタリア人で、周囲に聞けば、前職で発揮した手腕を買われてSAPに入社したとのことでした。 私にはイタリア人のビジネスパーソンについてとくにイメージがありませんでした。アメリカ人ならマイクロソフト社のビル・ゲイツやアップル社のスティーブ・ジョブズなど創業経営者のイメージがありますが、イタリア人についてはまったく思い浮かばず、せいぜい日本でも知られるサッカーリーグセリエAの選手たちを思い浮かべる程度で、陽気で情熱的でおしゃべりで、おしゃれなイメージでした。