久坂部羊「外務省医務官、終末期医療の医師を経て48歳で作家デビュー。上手に老いるコツは、知性を持って現状を受け入れること」
◆生きていると悩みは尽きない 心身の悩み以外にも、夫婦間の悩み、子との折り合い、介護問題など、生きていると悩みは尽きません。実は私自身、一度だけ離婚を考えたことがあります。赴任先のサウジアラビアで、価値観の違いから妻と言い争いが絶えず、理解し合えないと感じたのです。 そんなとき妻の父が急死。家族で帰国し、お葬式を終えて私だけ先にサウジアラビアに戻り、しばらく単身生活を余儀なくされました。 不思議なことに、離れてみると妻のありがたみが身に沁み、3ヵ月ほどで家族が戻ってきたときには離婚したい気持ちは消えていました。相手を変えようと懸命になっているうちは、嫌な部分しか見えなかったんですね。 私が不満を口にしなくなったら平和が訪れました。幸せには相応の代償が必要なのだと思います。 上手に老いるコツは、知性を持って現状を受け入れること。何ごとにもよい面と悪い面があって、老いとは肉体的には衰えても、精神面では豊かになれると知ることだと思います。 年齢とともにできなくなることが増えるのは当たり前です。普通に呼吸ができて、食事ができて、歩けることが、どれほど幸せか。 できる今を大切にして、できなくなってきたら、「お、来たな」と受け入れる。そんな生き方ができたら「悩まない心」を手に入れられるのかもしれません。 (構成=菊池亜希子、撮影=森清)
久坂部羊
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