ウクライナ戦争ドローン最前線を「新しい中世」という視点から解き明かしてみる【前編】
ウクライナ戦争開始から、最前線で無数の戦車と装甲車、そして陣地を破壊、さらに兵士を無力化するドローン。慶応大学SFC研究所上席所員・部谷直亮氏は、そのドローン最前線をこう表現する。 「国際政治学には将来の国際秩序のモデルの一つとして『新しい中世』という概念があります。この議論で想定されていた秩序だけでなく、戦争における産業も手段も、デジタルによって"新しい中世化"していると私は見ています」 「新しい中世」とは何なのか――。技術解説に、ハッカーで防衛技術コンサル会社技術顧問、現代戦研究会幹事を務め、国内外でドローンやAIなどを使った課題解決の実績がある量産型カスタム師を招き、部谷氏とともに解き明かしを試みる。 * * * 民生用ドローンを多用する現代戦争。それが『新しい中世』と表現されるのは、一体どういうことなのだろうか。 「いままだ移行途中ですが、155mm榴弾砲(りゅうだんほう)などは、中小企業や個人が作るのは不可能です。大企業でしか作れません。 しかし、ドローン戦においては違います。私はよく軍事転用される民生用ドローン(以降、ドローン)を『火縄銃』に例えるのですが、戦国時代に全ての武器を火縄銃にしたって、合戦に勝てるわけありません。でも、火縄銃がなかったら負ける。これまでの防衛企業が作る兵器は必要ですが、他方でドローンも欠かせない、ドローンなしには戦争が出来ないのが現状だと思っています。 このように軍事産業を担う大企業だけでは立ち行かない時代に、在来兵器とその技術はまるで白亜紀の巨大恐竜や第二次大戦末期の戦艦のような進化の袋小路のようになっている感があります。コストを増やしても性能は上がらず、新しい時代の戦争の道具に対応することもできない」(部谷氏) 次に、「ウクライナ軍の防御」の面からドローン戦の最前線を見てみる。 「ウクライナ軍は、市販の民生用ドローンで戦い出しました。僕は日本と海外のドローンの仕様の差を身をもって知っていたので、どう改造すればどのくらい飛ぶかは分かってました。 最前線では、ドローンの電波を検出して辿られると、操縦者付近にミサイルが着弾すると聞いています。ドローンを操縦する時に発出される電波が検知されている。実際に最前線を取材しているカメラマンから話を聞いて、これはもう電波を使った戦いになっていると理解しました。 特に今年に入って、ウクライナの最前線では、『スマホを機内モードにしろ』と同行する兵士から言われたそうです。これでさらに理解が深まりました。スマホを機内モードにすると電波を発しない。ドローンやスマホ、無線機にしても、電波を検知し合う電波戦になっているとも言えます」(量産型カスタム師)