「ピッティ」取材24時 新境地「マリーン セル」から“白Tパーフェクト兄さん”まで
中盤以降は、持ち前のテクニックが徐々に勢いを増していきます。エレガンスの軸はぶらさず、バックパックを再構築したジャケットやドレス、パッチワークのシャツやアクセサリーなど、生地使いでらしさを加えます。ただ、クラシックなムードは一貫しており、イタリアの職人が手作りした無数のコサージュが付くコートはラグジュアリーブランドのように美しく、序盤とは対になるオールホワイトのスタイルで締めくくりました。得意とするスポーティーな要素や疾走感溢れるカルチャー要素を薄めた分、正直なところ全体としてはパワーダウンした印象もあります。しかし、特にメンズでは、ブランドのステージを上げるためにテーラリングは避けて通れません。その点、「ピッティ」を意識した「マリーン セル」の新境地には新鮮な驚きがありました。
「ポール スミス」
ブランド設立52年の「ポール スミス(PAUL SMITH)」が「ピッティ」に31年ぶりに返ってきました。ブランドを52年続けるなんて、改めて驚きです。プレゼンテーション会場で19世紀竣工の邸宅ヴィラ・ファバールは、1日限りの“バー・ポール”に変身しました。バーは、1960年代にポール・スミスが通ったカフェをイメージしています。かつて、クリエイティブな人々が夜な夜な集った場を再現した舞台で、2025年春夏メンズ・コレクションを披露しました。
プレゼンテーションがスタートすると、モデルをセンターに立たせて、ポールがルックを一体一体解説します。コレクションは、1960年代のカフェに満ちた自由なムードを、伝統的なテーラリングになじませていきます。スーツの生地は千鳥格子やグレンチェックでクラシックに、着こなしはネクタイをゆるく巻いたり、ジャケットやパンツはイージーフィットだったりと、自然体のスタイル。「フィレンツェのみやげ」のようなネクタイの柄や、「リー(LEE)」とコラボレーションしたフラワージャカードのパンツ、さやかなミントグリーンなど、ウィットが効いたピースが楽しいコレクションでした。何より、サー・ポールのリズミカルな説明と、終盤には明らかに疲れてきた人間っぽさ、そして帰り際の投げキッスのばら撒きがほほえましく、和やかな時間を過ごせました。プレゼンテーション後には庭園で似顔絵を描いてくれるというので、和やかな雰囲気のまま、素敵に描いていただき……パタリロ?