死者数最大32万人「南海トラフ巨大地震」実際に起こりうる“震災現場での現実”
2024年8月8日に日向灘で発生したマグニチュード7.1の地震に伴い、気象庁が発表した「南海トラフ地震臨時情報」が「新語・流行語大賞」のノミネート30語に選出された。 いよいよ、「南海トラフ巨大地震」というワードが身近なものになってきたが、30年以内に70~80パーセントという高い確率で発生が予測されている“巨大地震”で、日本に一体何が起きるのか? どうすれば生き延びることができるのか? 【動画】医療、航空、司法、自衛隊、不動産…「やりすぎ都市伝説」最新回 綿密な取材に基づいて描いた漫画「南海トラフ巨大地震」(著:よしづきくみち)の原作者・bikiさんに、「実際に起こりうる震災現場での現実」を聞く。
“リアルな情報”を提供するとともにエンターテインメントとして描くことの難しさ
――2024年8月に第2巻が発売され、さらなる注目を浴びる「南海トラフ巨大地震」ですが、いつ頃から企画をスタートさせたのですか? 「2023年に企画をスタートさせ、地震や災害、防災の専門家の方、作品の舞台となる名古屋市の防災センターなどで取材を始めました。 あまりに先の未来を描くと難しいところもあったので、作品内で南海トラフ巨大地震が発生する日付を2025年2月11日に設定しました」 ――冬場に巨大地震が起きると、夏場以上に困難な状況になることが予想されます。 「津波から逃れても低体温症で亡くなる人が増えます。暖房器具などで火を使っている家も多く、火災が多く発生する。また、冬型の気圧配置(西高東低)で強い風が吹き、空気も乾燥しているため延焼スピードが速まるなど、多くの2次被害が予想されます」 ――本作では、“未曽有の災禍におけるサバイバル術”も指南されています。例えば第1巻の冒頭では、津波が迫り自動車内に逃げ込んでしまった主人公が、車内から脱出するまでの過程を解説とともに見せています。 「津波に飲み込まれてしまったら水圧の影響でドアが開かなくなるため、車の窓は必ず開けておく。例え水中に沈んでも、完全に水没すると車内と外の水圧に差がなくなることから、比較的ドアが開きやすくなる。ガラスを割って脱出する際に必要な緊急脱出用のハンマーを備えておく…といった生き残るための術を描きました。ハンマーがなければ座席のへッドレストを使うという知識は、取材を通じて知ったことです。 漫画でも描いていますが、津波の本当の怖さというのは漂流物ですから、一時的に車の中に避難するというのは物理的な被害を避けるために有効ではありますが、そうとも言えない場合がある。本当にさまざまなシチュエーションがあって難しいと悩みながらストーリーを考えています」 ――災害下における人々の状況は千差万別でしょうから、難しいところですね。 「生き延びるためのリアルな情報を提供するとともにエンターテインメントとして仕上げる難しさは、企画が始まった当初からありました。 主人公の設定も、いわゆるスーパーマンではない、ごく普通の青年ですから“果たして読んでもらえるかな?”という不安も。幸いなことに連載スタートから一定数の読者が付いてくれたので安心しましたし、本当にありがたいです」 ――西藤 命は、工事現場で働く27歳の派遣社員。パチンコをして毎日をやり過ごす、漫画の主人公としてはさえない青年です。 「一般的な漫画のセオリーではない作りになっています。南海トラフ巨大地震が発生したその時、何が起きるのか? どうすれば生き延びることができるのか? とともに、主人公の成長もメインテーマに据えているので、そのような設定にしました」 ――2025年2月11日15時07分、南海トラフ巨大地震が発生。命は、居合わせた老人を助けようとした結果、名古屋港で津波に飲み込まれてしまいます。 「災害避難の基本は“自助”といわれる中、葛藤を抱えながら、答えが出ないまま進んでいく主人公の方が魅力的に描けるのではないかと思いました。どんな困難にも打ち勝つスーパーマンより、読者も共感しやすいのではないかと」 ――ケガを負って動けない高齢者…見捨てるか、それとも助けるか? 究極の決断に迫られる主人公と同じ気持ちでページをめくる読者は多いと思います。 「“もう一度人生をやり直したい”けど、一歩踏み出せないでいた命が、災禍の中で何に気づいて、どう自分自身を変えていくのか。私自身、命と同じ27歳で会社を辞めて漫画原作の道に踏み出したので、彼と自分を重ねながら描いているところもあります。 高齢者を助けるかどうかの選択も、どちらが正しいかは分かりません。各話でそうした問いを投げかけていますが、考えるのは読者自身です。震災下では、瞬時に判断しなければならないことが続くので、少しでも自分事として考えていただければ幸いです」