おぎぬまXのキン肉マンレビュー【コミックス第40巻編】~悪魔と正義に再び光を灯す"ゆでマジック"~
この試合を見るにつけ、改めて僕が感動させられたのは『キン肉マン』というバトル作品における、強さのインフレ対策の盤石さであります。 一般的にバトル作品での主人公は、どんどん成長強化されていきますから、周りも後出しキャラほど強さが増して、初期に輝いた強敵はやがて置いてきぼりになっていくことが起こりがち。もはや逃れられない宿命のような難題となってます。しかし、このピークア・ブー戦でゆでたまご先生が見せてくれたのは、その問題へのアンチテーゼだったともいえます。 特に、新章以降の『キン肉マン』で顕著なのは、昔に出た様々な超人が新たな見せ場をしっかり獲得できるところ。誰も周回遅れにはならないのです。それをこんな一線級のバトルマンガがやって見せてくれていることは、業界全体的にも大きな意味があるのではないかと僕は本気で思います。 『キン肉マン』には、読者の数だけ推しの超人がいます。たとえ自分の推し超人が世間的には人気はイマイチなマニアックな超人だとしても、あるいは、すでに死んだことになっている超人だとしても、ひょっとしたら次の試合でリングインしてるかもしれない......『キン肉マン』はそんな希望を抱かせてくれる稀有(けう)な漫画なのです! そして試合後、例によって完璧超人の掟(おきて)に従い自害を図ろうとするのですが、それを思いとどまらせたキン肉マンの言葉は圧巻でした。なぜ彼は闘うのか、真にわかりあうとはどういうことか、そこにキン肉マンの強さの秘密があることを改めて思い起こさせてくれる、爽やかなエンディング...かと思いきや「惑わされるな!」と待ったをかける声が。その主こそが最後の一戦を展開中の大物、ストロング・ザ・武道です。 彼の本領がいよいよ発揮されるのか、という底知れぬ不安感を醸し出しつつ、物語は次巻へと続きます。 ●こんな見どころにも注目! 今回は本編以外の話になりますが、ぜひ触れておきたいのが巻頭の登場人物紹介コーナー。これまでは主要超人の名前とイラストがさらっと掲載されているだけでしたが、この巻から大幅に構成が変わって、三つ巴の各軍の前巻までの戦況が詳細に記されるようになりました。 これが見ていて非常に楽しい。ここからこの勢力図がどう変わっていくのかとワクワクせずにはいられない内容になってます! 作品をよく知る人ほど読み飛ばしがちなところかとは思いますが、改めてこのページ、皆さんにも注目し直してみてほしいです。 ●おぎぬまX(OGINUMA X)1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家、小説家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン。原作者として参加している『笑うネメシス―貴方だけの復讐―』が『漫画アクション』(双葉社)にて連載中。ミステリ小説シリーズ『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』、『キン肉マン 悪魔超人熱海旅行殺人事件』が好評発売中 漫画/おぎぬまX 構成/山下貴弘 ©ゆでたまご/集英社