おぎぬまXのキン肉マンレビュー【コミックス第40巻編】~悪魔と正義に再び光を灯す"ゆでマジック"~
やがて、試合はリングの下の水中戦へ。しかしアトランティスが水中へ向かうとなると、往年の読者なら思い出さずにいられないのが、水の底からロビンの仮面を剥いで浮かんできたトラウマ級のあのシーン! みんな大好きロビンマスクを葬(ほうむ)ったことで、昔は散々嫌われたであろう彼ですが、その闘いの中で見えてきたのは、彼がその因縁のロビン戦をずっと誇りに思い続けていた、という意外な事実です。 「え、アトランティスってそんなヤツだったんだ...!?」と最初は僕も驚いてしまいましたが、思えば、強すぎるが故に闘う目的を見失っていたマンモスマンに真剣勝負の醍醐味を教えたのはロビンマスクでした。悪魔である彼もまた仮面の貴公子に魅了された一人だったというわけです。そんなアトランティスの心境を知り、彼への見方を変えた人は多かったんじゃないでしょうか。その極め付きが、観客の中にいたポール少年との心温まるやりとりです。 昔の彼の蛮行を知る多くの大人の目にはこの試合、ただただ相手を殺したがっている者同士の汚れた闘いにしか見えません。しかし、ポール少年だけは違いました。目の前の超人ふたりに予備情報も偏見もない子供の目には、アトランティスの闘いにはマーリンマンにはない、何か心動かされるものがあったのです。 だから彼は、アトランティスを応援します。ただひとり心からの声援を送ります。しかし、そんな少年の声に、アトランティスはこう返します。 「悪魔なんぞ応援してたらろくな大人にならなねぇぞ」 悪魔は、決して人間の理解を得たくて闘っているのではない。そうは言ってもアトランティス、唯一応援してくれるこのポール少年の声に奮起します。心臓を貫かれても最後の力を振り絞り、彼が少年に見せた大逆転の大技は地元の英雄ロビンマスクの必殺技タワーブリッジ! これぞ少年マンガ!と叫びたくなる熱さです! しかし最後は、その技を出すと同時に力尽きてしまいアトランティスはマーリンマンと共に絶命。この大勝負、両者引き分けという結果に終わってしまいましたが......勝利以上の大きな功績を残したと言っても過言じゃありません。それは、長らく本編に登場していない超人が、空白期間の特訓次第で第一線に復帰できるかもしれないという希望です。 7人の悪魔超人の中で、バッファローマンに次ぐ存在感を放っていたブラックホールはともかく、姑息な手段を好んでいたアトランティスが、完璧超人相手に差し違えるという結果は、改めて絶妙な采配です。これによって、読者は全ての未登場超人のポテンシャルを見直すことになったでしょう。 さて、いよいよ次はお待ちかねの我らが主人公・キン肉マンの試合です。本当にこの巻、もうずっとワクワクが止まりません!