ポルシェ・カイエン 詳細データテスト 無駄なアシストのないV8 クラス最高水準のドライバビリティ
はじめに
ビッグマイナーチェンジとフルチェンジの線引きはどこにあるのか。今回のカイエン、言ってしまえばE3こと3代目のアップデート版なのだが、新世代モデルと言えるだけの変更が施されている。 【写真】写真で見るポルシェ・カイエンとライバル (15枚) エンジンはV6とV8のままだが、それぞれのユニットは大幅に改修。サスペンションも見直しが図られ、インテリアは体感の影響を受けてデザインを刷新した。エクステリアの変化はわずかだが、中身はもはや、2018年に登場した既存のカイエンとは別物となっている。 なにゆえフルモデルチェンジにも近い内容ながら、大幅アップデートという形をポルシェはとったのか。すべてはタイミングの問題だ。 カイエンはいまだポルシェのベストセラーだが、昔ながらの機械式4WDシステムを用いる内燃エンジン搭載のSUVは、将来がどうなるかは不透明だ。弟分のマカンは完全電動化が決まっており、カイエンも電動モデルが2027年に登場予定となっている。 これと同時に、コードネームK1こと、カイエンの上位に位置する7座オフローダーEVを投入する計画もある。いま、オールドスクールなカイエンをフルチェンジするのではなく、大幅なテコ入れを図るほうが妥当だと判断されたわけだ。 それでも、今後4年間、ポルシェはおそらく相当数の内燃機関を積んだカイエンを世界中で販売する。とはいえ、全面改良のコストを正当化できるほどではないと判断されたのだろう。そうした経緯で生まれた、E3世代の最終進化形となるだろう改良型カイエン、その進化に迫ってみよう。
意匠と技術 ★★★★★★★★☆☆
改良版カイエンは、ターボやGTSより手頃なグレードの、V8搭載車が加わった。エントリーモデルは353psの3.0L V6だが、今回テストするカイエンSは、アウディと共同開発したEA825型4.0L V8を搭載。最高出力は474ps、最大トルクは61.2kg-mだ。 7年前にパナメーラターボで初採用されたEA825だが、今回のユニットには新型のターボと電子制御ウェイストゲートが搭載され、レスポンスが改善した。吸気カムも更新され、高負荷時から低負荷時までプロファイルを素早く切り替え。さらに磁気抵抗式カムシャフトセンサーにより、カムの位置決めも精確に。パフォーマンス向上とCO2排出量削減を両立した。冷却系とピストンリングの最適化で、耐久性も高めた。 このカイエンSは、電動アシストを一切持たないモデルだが、英国へ導入される5仕様のうち、3仕様がPHEVで、V6ベース2タイプと、V8ベースで739psのターボEハイブリッドだ。 これらのPHEVは以前より8.0kWhアップした25.9kWhのバッテリーを搭載。ギアボックスに新型の駆動用モーターを組み込み、よりパワフルでありながら、エネルギー回生効率も30%アップしたという。摩擦ブレーキで15km/h以下に落とした後は、歩くようなペースで進むこともできる。 全車とも、トランスミッションは8速ティプトロニックSトルクコンバーターATをキャリーオーバー。スポーツとスポーツプラスの各モードでは、変速スピードが短縮される。ノーマルモードはこれまで以上に効率重視で、ソフトウェアはそのときどきで可能な限り高いギアを選ぶ。 シャシーでは、スティールスプリングとダブルバルブの新型アダプティブダンパーのセットを、カイエン初採用。伸び側と縮側を独立でき、走行モードによって乗り心地やボディコントロールのキャラクターをおきく変えることができる。 2チャンバー式エアスプリングを搭載する仕様も設定。ポルシェはスティールよりエアのほうが性能は上だと断言しており、特に低速で効果的としている。アクティブスタビライザーのPDCCと、電子制御LSDのPTVプラスは、全車で選択可能だ。 モノコックはほぼアルミだが、ボディパネルのアルミ使用比率も拡大。2160kgという公称重量は、先代Sよりはシリンダー数増加もあって140kg重くなっているが、V8搭載のレンジローバー・スポーツよりは270kg軽い。90Lタンクを燃料で満たしての実測値は2256kgだった。