「不安」煽ったトランプ氏、「価値」訴えたハリス氏 米大統領選、政策論争は深まらず
【ワシントン=大内清】米大統領選の投票日が5日に迫った。共和党候補のトランプ前大統領(78)が不法移民の流入や経済の先行きへの「不安」をてこに訴求を図るのに対し、民主党候補のハリス副大統領(60)は人工妊娠中絶を選ぶ権利や、トランプ氏が軽視する民主的手続きの重要性といった「価値」に力点を置き、世論は大きく二分されている。自由民主主義陣営の盟主である米国の指導者を選ぶ選挙戦だが、外交・安全保障を含む政策論争は深まらなかった。 【表でみる】米大統領選 接戦州での支持率 トランプ氏の公約は過去2度の選挙にも増して過激だ。1100万人を超す不法移民を送還すると宣言。中国製品に60%の、それ以外の外国製品に10~20%の関税を課すとしている。この関税政策は、価格転嫁によって実質的な増税につながると指摘される。 トランプ氏はまた、自身の起訴への報復を誓い、民主党などの「内なる敵」に州兵や米軍を用いると主張。移民問題では「ハイチ人の移民が犬や猫を食べている」といった虚偽情報も拡散した。経済政策では「ハリス氏とバイデン政権がインフレを引き起こした」とし、「修復できるのは自分だ」と訴えた。 調査機関ギャラップが10月に発表した世論調査では、「経済」と「不法移民」により良く対処できるのはトランプ氏だとする答えがハリス氏をいずれも9ポイント上回った。 最重要争点の経済で後れをとるハリス氏が活路を見いだすのは、女性の関心が高い中絶の権利擁護や、医療コストの引き下げだ。ギャラップの調査では、ハリス氏は「中絶」で16ポイント、「医療問題」で10ポイント、トランプ氏より評価が高かった。 各種世論調査では、トランプ氏が「白人」「男性」「非高学歴層」を支持基盤とし、ハリス氏が「非白人」「女性」「高学歴層」を固める傾向が顕著に表れている。 外交・安保でトランプ氏は、東西冷戦期のレーガン元大統領にならった米主導の「力による平和」を主張した。半面、ロシアのウクライナ侵略では、露側に有利なディール(取引)を志向。台湾防衛を巡っては、台湾の半導体産業に不満を示し、「(台湾はもっと)防衛費を払うべきだ」としている。 ハリス氏は選挙戦で「前に進む新しい道」とのメッセージを打ち出し、外交・安保でバイデン政権と共通点が多い共和党の非トランプ派とも手を結んだ。だが、トランプ氏個人の適格性を巡る議論に終始し、外交姿勢の矛盾点を突いたり、自身の外交観を明確化したりすることはできなかった。