【町田リトル】明確なカテゴリー別の役割、厳しさのなかにある「野球の楽しさ」
「親の負担ゼロ」を謳うチームも多くなってきた昨今、送迎必須な場所での練習に1年間の事務局当番もあるなど、それなりに親の負担の大きい町田リトル(東京都町田市)。それでも50人の子どもが在籍しているチームの魅力はどんなところにあるのでしょうか? 前編に続き、今回は各カテゴリーの監督にお話を聞きました。 【ティーボール:河本和哉監督】 ――この年代の子を指導するうえで気をつけている点は? 子ども達に体調不良などがないかは常に気をつけてみるようにしています。あとは挨拶と礼儀。技術的な部分は好きなように、自分のやりやすいようにまずはやらせています。細かいことは言いませんが「この投げ方では怪我をするな」「この打ち方だといつまでたってもバットに当たらないな」と思ったときだけ指導します。指導するときも「こうじゃないの?」と直すのではなくて、「こうした方がいいんじゃない?」とちょっとだけ自分でも考えさせることを意識して、押しつけではなくちょっとずつ考えてもらうようにしています。それで結果が出たら子ども達もそのやり方に準じてやってくれるようになりますから。(技術を)押さえつけて教えるのではなく、ちょっとずつ自分なりに考えてもらえたらなと思っています。「野球の楽しさ」だけ知ってもらえれば良いかなと思っています。 ――「野球の楽しさ」という言葉が出ましたが、河本監督の考える野球の楽しさとは? 試合に出て、ヒットを打って活躍して、ベースの上からベンチを見て「やったよ!」という笑顔が出たら、それって野球が楽しいということですよね。大きく言うと、グラウンドに来るのがいつも楽しみ。それが野球が楽しいということなのかなと思います。 ――リトルリーグは学年毎に3つのカテゴリーに別れて練習をしていますが、「ティーボール」カテゴリーの位置づけは? このカテゴリーでは「野球はつまらない」という印象にならないように、「野球が楽しい」と思ってもらえることを目標にしています。上のカテゴリーに上がるにつれてちょっとずつ練習も厳しくなっていきますけど、どんなに辛い練習があっても、それでも野球は楽しいと思ってもらえるような、そんなふうにして次の「マイナー」カテゴリーに送り出したいと思っています。 ――小学生年代で硬式球はちょっと敷居が高いような気もするのですが、それでも町田リトルに多くの子ども達が集まっている要因はどこにあると思いますか? どこのチームも専用グラウンドを持っているんですけど、メジャー、マイナー、ティーボールと各カテゴリーが別々の場所で活動しているチームが多いと思うんです。でも町田リトルの場合は狭いながらも3カテゴリーが同じグラウンドで一緒に活動ができているので、ティーボールの保護者の方はメジャーの練習が見られるし、メジャーの保護者の方は自分の子どもがやってきたティーボールの練習も見れる。そういう全カテゴリーが一緒の環境が良いのかなと思います。 【マイナー:山村肇監督】 ――体幹と自重トレに力を入れていましたが、このカテゴリーで体幹と筋力を鍛える狙いは? 身体の強さと俊敏性を高めること。あとは体力をつけることですね。マイナーの位置づけはそういったことと挨拶と礼儀。この基礎固めをしてメジャーに送り出すことだと思っています。 ――このカテゴリーからボールが硬球に変わるだけあって、ちょっとボールが逸れたときには「危ない!」という大きな声が子ども達からも出ていますね。 それはもう徹底させていますし、「なんで声を出す必要があるの?」と言うところから伝えるようにしています。試合でファーストランナーが走ったら「走った!」って教えてあげたらアウトが1つ取れるかもしれない。そういうところから声を出す重要性を子ども達に伝えてます。 ――捕る、投げる、打つの指導はどういった点を重視していますか? 捕るは3、4年生の段階では諦めずに追いかけること。グローブに当てるのと当たらないでは全然違うので一生懸命に追いかける、そして守備範囲を広くする。ゴロの捕り方の基本はティーボールの時にやっていますし、細かい部分はメジャーに行ってからになります。投げるは身体全部を使って、塁間の距離を全力で投げる。打つは、強い打球を打つ、遠くへ飛ばすこと。これも細かい部分はメジャーに行ってからになります。でもボールは「アウトコースにくるよ」とは言っています。リトルはほとんどのボールがアウトコースになるんです。インコースはバッターに当てる恐れがあって、ぶつけるとピッチャーの方が精神的にダメージがありますし、インコースに投げきれる子もほとんどいませんから。だからアウトコースのボールをバットの先っぽではなくて芯で捉えられるようにということを意識してやっています。 ――3、4年生を指導する上で注意していることは? わかりやすい言葉で指導することとモチベーションを上げることを意識しています。技術論を話してもはなかなか通じないので、そこはメジャーに任せています。実践させて「やっぱり楽しいな!」と思ってもらうこともマイナーの役目かなと思っています。 ――監督の考える「野球の楽しさ」とは? できなかったことができるようになること。この前も子ども達には話したんですけど「今日何かできるようになった? 新しくこれができるようになったというのがある人?」って聞いたら、7割くらいが手を挙げたんです。できた、できるようになったという成功体験をたくさんして欲しい。それが楽しさに繋がると思っています。 【メジャー:中村知也監督】 ――メジャーの指導方針は? 特に技術の面、ディテールにこだわっています。あとは練習に取り組む姿勢です。毎日素振りをやると決めたのならしっかりやり通す姿勢。それは技術レベルや体格差に関係なくできることだと思いますから。 ――こういうときは怒るよ、ということは何かありますか? 集中力を欠いたときですね。グラウンドを見ていないときは怒ります。グラウンドの中の子達は絶対に見ますよね。だからグラウンドの外にいるときの子達を見るようにしています。例えばキャッチャーやファーストの後ろにいるランナーを待っている子達がグラウンドの中を見ていないと暴投が来たときに当たってしまいますよね? 安全の面からそういうところを見ています。コーチはグラウンドの中を見て、僕はグラウンドの外をよく見ているようにしています。 捕る、投げる、打つは個人差もありますし得意、不得意もあると思いますけど、「見る」と「声を出す」ことは誰でも意識すればできること。だからできてないときには怒るようにしています。そういうことが一生懸命にできる子は伸びる子が多いと思っています。 ――中村監督が考える「野球の楽しさ」とは? 厳しさのなかにある「楽しさ」でしょうか。高学年になると練習も厳しくなりますし、硬球で野球をやっているので当たると痛いし危ない部分もある。だから常に集中しないといけないという精神的に厳しい部分もあります。そのなかで良いプレーができたり、打てたり、怖さに打ち勝ってボールを捕れたり、そういうのが楽しいことなんじゃないかなと思います。 ――「楽しい野球」の対極にある「勝利至上主義」という言葉に対して思うことはありますか? 勝つことを前提にしないスポーツなんてあり得ないと思うので、そういう意味ではみんな「勝利至上主義」だと思います。ただ、子どもが不幸になってまで、不幸にしてまで勝ちを優先することはあり得ません。怪我をしてまで投げろとも思わないですし、休むときは休みなさい。安全、健康が第一だと思っています。 ――監督として嬉しい瞬間はどんな時でしょうか? 子どもが喜ぶ姿を見たときですね。勝利の瞬間とか、子どもが良いプレーをして「やった!」という表情になるときが一番嬉しいですね。プレーだけじゃなくて「今日はアイス食うぞ」と言っても同じような表情になるんですけどね(笑)。 ――リトルリーグの良さはどんなところにあると感じていますか? 仲間と一緒の目標に向かって練習をして、一緒に喜んだり、悔しがったり、それが子どもの成長に繋がる、野球の一番の良さかなと思います。リトルリーグは1年から入っている子は最長7年やりますから、期間が長いんです。その間にそういったことをたくさん経験させてあげて人間形成ができる。それがリトルリーグの良いところかなと思います。 (取材・写真/永松欣也)
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