高齢者を「薬漬け」にするよりずっと効果的…長野県が「お金がかからない長寿県」になった意外な理由
長野県の平均寿命は男女ともに全国トップクラスだ。医師の和田秀樹さんは「諏訪や佐久など地域医療運動が盛んで、そこで重要な役割を担う総合診療医の数が多い。一方、日本老年医学会で認定された老年医療の専門医が最も少ないのが特徴だ」という――。 【図表をみる】都道府県別の平均寿命(2020年) ※本稿は、和田秀樹『ヤバい医者のつくられ方』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。 ■医療費を抑えつつ、長寿を実現した長野県 厚生労働省が5年に一度発表している都道府県別の平均寿命を見ると、2020年時点で長野県に住む人の平均寿命は男性82.68歳で全国2位、女性は88.23歳で全国4位です(図表1を参照)。 一方で、2021年の一人当たりの後期高齢者医療費は全国で34位でした(図表2を参照)。 これは一時的なことではなく、長野県は一人当たりの老人医療費が安く抑えられているにもかかわらず、平均寿命はずっとトップクラスで推移していることで有名な県なのです。 高齢者の有職率の高さなど考えられる要因はいろいろありますが、まず挙げられるのは、長野県が日本老年医学会で認定された老年医療の専門医が最も少ない県の一つだからだと私は考えます。 老年医療の専門医が少ないから高齢者が元気だなんて、普通に考えるととても不思議な話のように思えるでしょう。 でも、これは事実です。
■ポスト競争に負けてしまった医師の行く先 なぜそんなことになるのかというと、老年医療の専門医というのが、私に言わせれば頭でっかちのニセモノばかりだからです。 実は老年科の教授の大半は、呼吸器科や循環器科など老年医療以外の出身です。ライバルが多い呼吸器科や循環器科だと教授になることができなかったため、代わりのポストとして老年科の教授のポストを与えられるケースが非常に多いのです。 これまでの話からすると、この人たちが教授になれなかったのは、臨床を一生懸命やっていたからというふうにも受け取れますが、そんなことはありません。はっきり言えば、ろくな論文が書けなかった人たちなのですが、呼吸器科や循環器科というのは医学部の中でもとりわけ力を持つ科なので、ここの教授たちが自分の部下に別の科のポストをあてがっているのでしょう。 そうやって選ばれた医学部老年科の教授が日本老年医学会の役員となり、老年医療の専門医になるための試験問題をつくっています。老年医療の臨床のことなど全くわからない人たちが問題をつくれば、理論重視の内容になるのは当然です。 ■高齢者を「薬漬け」にしてきた張本人 そんな試験なら臨床に強くなくても机上の勉強さえできれば対応できます。その試験にパスしたというだけで専門医を名乗るようになった医者が、老年医療の現場でのスペシャリストになどなり得ません。高齢になるほど個人差も大きくなるので、老年医療というのは杓子定規の知識だけではとても太刀打ちできないのです。 しかも、老年医療の専門医の集まりである「日本老年医学会」は、最近でこそ「高齢者に薬を使いすぎてはいけない」などと言い出していますが、高齢者に対する薬の適正使用についての研究を一切することなく、むしろ高齢者を薬漬けにして製薬会社を儲けさせてきた張本人です。 日本老年医学会で認定された老年医療の専門医が最も少ない長野県の後期高齢者医療費が安い理由の一つはまさにそれです。そのおかげで薬漬けから逃れられているというのも、長野県の人たちの平均寿命が長い理由の一つなのでしょう。