高齢者を「薬漬け」にするよりずっと効果的…長野県が「お金がかからない長寿県」になった意外な理由
■高齢者の健康を守ってきたのは総合診療医 長野県には信州大学の医学部がありますが、その影響力は他県より弱いとされ、その附属病院に勤める専門医も少ないという特徴があります。 長野県の最も大きな特徴は、農村医療の父と言われた若月俊一先生をリーダーとした佐久総合病院や、作家としても活躍されている鎌田實先生の諏訪中央病院などを中心とした地域医療運動が盛んで、そこで重要な役割を担う総合診療医の数が多いことです。佐久総合病院も諏訪中央病院も日本老年医学会の認定施設には選ばれていないこともここに記しておきましょう。 高齢者の健康を守ることと、医療費を抑えることを両立しているという意味で、長野県型の医療、つまり総合診療医がその手腕を発揮する医療が、超高齢社会の医療モデルとなりうることは明らかなのです。 「新臨床研修制度」の導入など、専門分化型の医療から総合診療型の医療への移行の方向性は一応打ち出されてはいます。 しかし、現実にはそのような改革はほとんど進んでいません。 ■専門医が圧倒的に多く、総合診療医は少数派 初期研修の後に専門医の資格を取るハードルが以前より高くなったせいで、専門科以外の勉強をあまりしなくなるドライブがかかってしまった面もあり、日本の医療の主流は専門分化、つまり臓器別診療主体であるという状況は変わっていません。 総合診療科なるものを新設したりしていますが、専門科のワンノブゼムの扱いでは、医療の潮流が変わるようなことはあり得ないでしょう。実際、「新臨床研修制度」が導入されて20年も経つというのに、新たに総合診療医として採用される医者の割合は全専門医の3%程度しかいないのです。 例えばイギリスでは、全医師の半数が、「General Practitioner(ジェネラル・プラクティショナー)」と呼ばれる総合診療医ですから、これはもう雲泥の差があると言わざるを得ません。 超高齢社会への対応を本気で考えるのであれば、例えば、総合診療科だけ教授の数を20人にするとか、助手の数を100人にするなどの優遇措置を講じるべきなのですが、現状のままではおそらくそれは叶わないでしょう。 そんなことをすれば、今いる他の科の教授たちの専門医としての立場が軽んじられることになり、医療界に及ぼす影響力も失って、既得権益も剝がされてしまいかねないからです。 つまり、自らのメンツや利権を守りたい教授たちの一存で、待ったなしであるはずの医療の変革が阻まれているのです。