ただ1人のための薬を作りたい…「希少疾患」に最新の医療技術で挑む 多くは遺伝子の異常、重い症状に苦しむ家族や患者にどう応えるか
11番染色体にある遺伝子「ATM」の変異によって脳と免疫に影響が出る病気だ。全身の筋肉をうまく調節できず、ふらついたり、手をうまく動かせなくなったりする。感染症で重症化しやすい、がんを発症しやすい、などの症状も起きる。患者会によると、発症するのは人口10万人当たり1人の割合。どう症状がどう変化していくのか予想するのが難しく、治療法は確立されていない。 診断後、免疫の働きを補う薬を週1回、専用の機器で注射している。それでも症状は少しずつ進行し、小学3年の頃から手が震えてうまく字が書けなくなった。長く同じ姿勢で座るのが難しくなり、飲み込む力が落ちていて食後に吐いてしまうこともある。現在は特別な車いすで学校に通っている。 母親は「小学4年生ぐらいまでは基本的には元気で、感染症で入院するという経験もなかった」と話す。しかし、その後、血液がんになる可能性が高いと分かって骨髄移植をし、疲れやすいため自宅で過ごす時間の多くは横になっているという。
個別に作った核酸医薬を使えば、症状の進行を遅らせて、より長く生きられる可能性がある。一方で、根治させたり、失われた体の機能を回復させたりするのは難しい。 手を引いてもらえば歩けるようになるとか、少しでも体の不自由がなくなることを本人は一番望んでいるのではないか―。母親はそう考えており、作られた薬にどんな効果がありそうかを知った上で、投与するかどうかを陽平さんと一緒に考えるつもりだ。生きていれば、いずれ画期的な治療法が開発されて、受けられるかもしれない。「一番大事なのは命。できるだけ長く生きていてほしい。早く薬を作って投与できるなら、それが望ましいと思う」