ただ1人のための薬を作りたい…「希少疾患」に最新の医療技術で挑む 多くは遺伝子の異常、重い症状に苦しむ家族や患者にどう応えるか
日本でも候補となる患者を探すプロジェクトが始動した。中核となっているのは東京医科歯科大や国立精神・神経医療研究センターだ。 候補となり得るのは、病名も治療法も分からない患者の遺伝子を解析する「未診断疾患イニシアチブ(IRUD)」という取り組みに参加し、診断のついた希少疾患の患者。2千人以上いる。この中から年齢や症状の重さなども踏まえて核酸医薬を作れそうな患者を探している。 中心的な役割を担う横田隆徳・東京医科歯科大教授は、原因となっている遺伝子の変異が分かれば核酸医薬で治療できるかもしれない時代になった、との見方を示す。「一人一人、有効な核酸医薬を作れるかどうかを調べ、治療可能な人をできる限り見つけたい」 ▽どうやって安全性を確かめる? 国内でハードルになるのは、薬を作った後の投与までの道のりだ。通常の医薬品で実施する「臨床試験」では、大勢の患者を「薬を投与するグループ」と「投与しないグループ」に分けて比較し、有効性や安全性を確かめる。だが1人の患者向けに作った核酸医薬ではこの手法が使えない。
核酸医薬のリスクは何が想定されるのか。例えば、標的となる遺伝子に作用したものの、効き過ぎてかえって有害な反応を起こすことが考えられるという。また、標的ではない遺伝子に働いたり、予期せぬ副作用を起こしたりするケースも起こり得る。 そのため、人に投与する前に、繰り返し投与しても大丈夫か、遺伝子を傷つけないか、という点を調べる必要がある。横田さんは訴える。「通常の臨床試験が間に合わない、急速に病状が進行する患者さんを治療するため、日本に適した制度を設計する必要がある」 医薬品の審査を担当する国の組織「医薬品医療機器総合機構(PMDA)」。薬の毒性評価に関わる真木一茂・上級スペシャリストは、核酸医薬をミラセンと同様に、1人を対象とする臨床試験として投与すると想定した場合には、以下の点を考える必要があると指摘する。 動物や細胞を使った試験の成績や、既に実用化している似た核酸医薬のデータから、どれくらいの量でどんな毒性が出ると予想されるのか。投与後はどんな検査をするのが適切か。体調が悪化した際に回復は可能か―。